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化け猫は斯く語りき

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「なぁぁぁお」
 もうしばらく眺めていたかったのであるが、青い顔をした人間の男が走り寄って来たので何事かと桜の枝に飛び上がってしまったのである。男の行き先を見やるとそこには長陀の列が存在していた。最後尾に並んだ後も忙しなく動き続けていたその男は、何を思ったか列を離れ吾輩の居る桜の根元にやって来たのである。
「う〜 漏れるっ したいっ」
 どうやらこの桜はいわゆる厠の裏側にあたるらしく、酔った人間どもが根元に向けて小水を垂れ流しておったらしいのだ。よくよく見れば付近には嘔吐物らしきものまでもが散乱していたのである。

「ははは、この美しさの所以はそういう事であったのか」

 厠の傍という理由でこの美しさに気付けぬ愚かな人間と、その愚かな人間の所業によって生まれた美しさに見惚れた吾輩とはどちらが救えぬであろうかと頭を悩ませながら、吾輩はその土地をあとにしたのである。


  ― 『埋もれる死体』 了 ―
作品名:化け猫は斯く語りき 作家名:村崎右近