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愛を奏でる砂漠の楽園 04

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「はい。通路の方は既に封鎖しております。それと、宮殿から出た者は誰もいない模様です」
「まだ隠し通路が無いか今一度調べろ」
「分かりました」
 宮殿へと入った者がいる事を報告しに来ていた家臣が部屋を下がったのと入れ違いに、ハムゼが部屋の中へと入って来た。
 ハムゼの浮かべている表情から、自分だけが聞いた方が良い話しがあるのだという事を察したシナンは、周りにいる家臣達に視線だけで自分から少し離れるように命じる。
 家臣達が離れると自分の元までやって来たハムゼが、膝を付き耳打ちと共に手紙を差し出して来た。
「王からの手紙です」
「お前はもう目を通したのか?」
 ハムゼにだけ聞こえるような声でそう言いながら、シナンは手紙を開け中身を確認する。
「何かあったらと思い確認させて頂きました。私しか見ておりませんので、内容を知っているのはシナン様と私だけになります」
 中身を確認する事によって、ハムゼが何故周りに隠すようにして手紙を持って来たのかという事を察した。そして、他の家臣達に見せずにここまで持って来てくれた事を感謝した。
「少し席を外してくれ」
「畏まりました」
 シナンの命令を聞き、家臣達が次々に部屋から出て行く。
 ハムゼと二人きりの状態へとなると、ユスフは溜め息と共に言葉を放った。

「……まさかユスフを人質に取るとはな」

 手紙の内容は、ユスフの命が惜しければ一人で宮殿まで来いというものであった。
 ユスフが人質となってしまう事を、全く予想していなかった訳では無い。寧ろユスフに対してただならぬ感情を自分が抱いている事を知っている王が、ユスフを人質に取る可能性が高いと思っていた。
 その為この屋敷へと着くと直ぐに、シナンは家臣の一人にユスフを捜すように命じていた。
 ユスフが見付かったという報告をまだ受けていない事から悪い予感はしていたのだが、既に王の手の中へと落ちた後であったようだ。
「……どうされますか?」
「答えなど決まっているだろ。愛する者の一人も守れなくて、民全てを守る事などできない。ユスフを助け出しに行く」
 当然のような表情を浮かべてシナンが言い放つと、ハムゼが諦めたような表情へとなる。
 全く止めようともせず直ぐにそんな表情へとなったという事は、自分が何と返事をするのかという事を、ハムゼは既に察していたという事であるのだろう。
「致し方ありませんね。ですが、全く策を練らずに王の元へと向かうのは危険過ぎます。王はかなり愚かな男にございますから」
「何だ?」
 何か策があるのだという事を感じ取ったシナンは、ハムゼの言葉へと神妙な面持ちで耳を傾けた。



「酷い面だな」
 ハムゼの言葉を聞き終えると、シナンはそう言いながら座布団の上から立ち上がった。
 ハムゼの端正な顔には疲れの色がくっきりと出ているだけで無く、目の下には濃い隅まで出来ている。同じように反旗を翻してから殆ど休む事も寝る事もしていない自分も、大差の無い顔をしている事は間違いが無いだろう。
「こんな顔では、あれに心配を掛けてしまう事になります。明日は一日お休みの方を頂いても構わないでしょうか?」
 ハムゼの言葉を聞き、シナンは苦笑する。ハムゼの言葉が、王へと打ち勝つ事を前提としたものであったからだ。
「勿論だとも。一日と言わず三日ぐらいゆっくりしろ」
「そんなにゆっくりしていては、困るのはシナン様だと思うのですが?」
「困るのは俺では無く他の家臣だ。俺も暫くはゆっくりする予定だからな」
 そう言った後、先程までと表情を一変させたシナンは、王の元へと単独乗り込む事を告げる為に席を外して貰っていた家臣達を呼び戻したのだった。