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愛を奏でる砂漠の楽園 01

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 台の前へと立ち、紫色の八重咲きの花が浮かんでいる洗面器の水を両手で掬う。そうすると、鼻先をふわっと薔薇の花香が掠めた。
 水の中に混ざっている薔薇の精油は、庶民が到底手に入れる事ができない程に高価な物である。昔ならば触れる事さえもできなかった物であるという事は分かっていても、強い匂いの物を苦手としているユスフは自然と顔を歪めてしまう。
 洗面用の水へと精油が混ざっているのは、いつもの事であって今日が初めての事では無い。今更の事でしか無い香りを不快に思ってしまったのは、先程迄見ていた夢が原因である事は間違いの無い事であった。
 布で顔を拭き終えると、侍女が着替えの服を差し出して来た。
 侍女の手にある煌びやかな衣装は、今まで目にした事の無いものであった。誰かが新しい衣装を誂え持って来たようである。
 誰が持って来たのかという事は、侍女に訊けば分かる事である。だが誰が持って来たのかという事に対して全く興味を持つ事ができなかったユスフは、何も訊かず侍女から真新しい衣装を受け取った。
「そろそろ、時間の方です」
 衣装へと袖を通し必要となる小道具を用意すると、部屋の中へと一枚布でできた帽子(ターバン)を頭に巻き、白いズボンの上に白い長丈の胴衣を纏い、その上から鮮やかな色をした上着(カフタン)を羽織った男が入って来た。
 既に準備を済ませているユスフが、分かっているというようにして目配せをすると、男は何も言わず部屋の中から出て行った。それを見て今度は侍女へと目配せをした後、ユスフは侍女と共に部屋を離れたのだった。