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愛を奏でる砂漠の楽園 01

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「もうこんな時間になってる」
 花を手折るのを止めたユスフは、焦りを孕んだ声で零した。
 既に稽古は疾うに始まっている筈だ。稽古を忘れて花摘みへと夢中になっていた事を座長に知られれば、喜ばせるどころか悲しませる事になってしまう。
 何か良い言い訳は無いだろうか? 言い訳をするのならば、摘んだ花をここへ置いて行った方が良いだろう。
 暫し考えを巡らせた後、ユスフは小さく首を左右へと振って、言い訳を考える事を止めた。
 折角摘んだ花をここへと残して帰る事などできない。
 テントへと戻り花瓶の中へと生ければ暫くは命が長らえるが、ここへと残すような事をすれば、花の命は明日にでも終わってしまう事となる。花の命を奪ってしまったのだから、最後までその責任を取らなくてはいけない。
 それに、母親代わりである座長は、嘘を吐かれるという事を嫌っている。嘘を吐いた事が露顕した時の事を考えると、素直に何故遅れてしまったのかという事を話した方が良いとしか思えない。
 怒られる覚悟を決めたユスフは、足早に森を離れた。



 背の高い草が生い茂っている場所まで出た時、何かが燃焼する不快な臭いがユスフの鼻先を掠める。
 近くで何か燃やしているのだろうか?
 この近くには民家は無い筈なので、何か燃やしているとすれば一座の誰かである可能性が高い。
 こんな時間に何か燃やすなど珍しい。怪訝な表情を浮かべながらも、背の高い草が生い茂っている中を進む事によって、鼻先を掠めている臭いが、普通の物を燃やしているとは思えない程に強いものへと変わっていく。
 テントで何かあったのかもしれない。悪い予感を覚えたユスフは花を胸に抱きしめ、路地へと向かって走り出した。