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愛を抱いて 19

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そんなに盛り上がったの?」
「いや、合コンは最低だった…。」

 「じゃ、私達は帰るわね。」
「鉄兵君、今夜は一人でぐっすり眠りなさい…。」
「そうよ、早く眠った方がいいわ。
もう吐き気はないの?」
「うん…。
吐く物がないんだ。
今度吐いたら、血が出る…。」
「肝臓がいつか本当に駄目になるわよ。
おやすみなさい…。」
三人は部屋を出て行った。
暗く静かになった部屋で、私は眠ろうとした。
しかし、頭が酷く痛んで、なかなか眠れそうになかった。
眼を閉じると、部屋中が回転を始めた。
胸の辺りが苦しかった。
堪らず、私は長い唸り声を上げた。
声を出すと幾分か楽になるのだった。
私は苦しみに耐えながら、やがて眠りに堕ちた。

 私は眼を覚ました。
まだ夜中だった。
数時間は眠った様な気がした。
気分は落ち着いていた。
ふと気づくと、部屋中に黒い影が横たわっていた。
よく視ると、淳一と柴山と、西沢と野口がゴロ寝をしていた。
大きな鼾が聴こえた。
私は眼を閉じると、再び眠りに就いた。

 翌朝、淳一と私は同時に眼を覚ました様だった。
二人は煙草に火を点けた。
「お前等、どうして、なかなか出て来なかったんだ?」
私は訊いた。
「ああ、あの後、色々と大変だったんだ…。
お前は、ちゃんと1人で帰れたんだな。」
「1人ではなかったらしいが、ちゃんと帰れた…。」
西沢と野口も眼を覚ました。
「よぉ、鉄兵。
毎度毎度、勝手に転がり込んで悪いな。」
「そんな事は、別に気にしちゃいないさ。」
「そうだな。
お前の場合、朝起きて隣に誰か寝ていても、一々驚いてはいられないだろうな…。」
「こいつが悪いんだ。」
淳一が柴山の頭を小突いた。
柴山は幸せそうな寝顔をして、よく眠っていた。
「本当…。
ゆうべの先生には参ったよなぁ…。」
煙草をくわえながら、西沢が云った。


                          〈三七、黒いスカートの女〉






38. 柴山泥酔事件〔その2〕


 我々は柴山の事を「先生」と呼んでいた。
共立女子大との合コンで、運悪く先生は途轍もない酒豪の女の隣に座ってしまった。
私が「底なし」と密かに呼んだその女も最後は潰れたが、先生もまた大破、いや撃沈されていた。
「じゅらく」に入るとすぐ、先生は椅子の上に身体を横たえ、眠り込んでしまった。
私はしばらく皆の話に加わっていたが、途中で「酷く眠い…。横になりたい…。」と云い出し、隣の女に「膝を借りてもいいかい…?」と訊くと、その女の膝の上で眠り始めたそうだった。
やがて、ゆかりと底なし女が眼を覚まし、彼女達の寮の門限が迫って来た。
「彼女、まだ顔が蒼かったが、お前が膝枕をしているのを視て、確かに表情を曇らせたぜ…。」
淳一が云った。
「どうでもいいさ。
もう逢う事のない女だ…。」
煙草の灰を落としながら、私は云った。

── 西沢が先生を起こそうとした。
先生は「ああ…。」と呟いたかと思うと、一人でフラッと立ち上がり、2、3歩前へ進んでから、床の上へドッと倒れた。
女の悲鳴が上がった。
西沢が慌てて駆け寄り、先生の胸に手を回して上半身だけ抱き起こした。
と、突然、先生は嘔吐を始めた。
西沢は先生の顔を下へ屈ませ、背中を押した。
野口が、居酒屋でもらって来たナイロン袋を持って走り寄ったが、時既に遅かった。
嘔吐を終えると、先生は「寝かせてくれ!」と叫び、西沢の手を振り払ってその場で大の字になってしまった。
その時、私はまだ女の膝の上でぐっすり眠っていた。

 私を外へ連れて出た後、淳一は再び店に戻って来た。
ウェイターが立って先生を視ていた。
床を酷く汚した代金は、やはり五千円であった。
淳一、西沢、野口の3人で先生を抱えようとしたが、身体に触れると先生は「いい…、止めてくれ!」と叫び、強く抵抗した。
共立の女達は、茫然とその光景を見つめていた。
「御免なさい…、私達が…。」
「君等は何も心配しなくていい。
もう帰らないと、寮に入れなくなるんじゃない? 
俺達はこの有様で、送って行けないけど…。」
「とんでもないわ…。
彼、大丈夫かしら…?」
「こいつは酒に強いんだけど、際限なく呑むから、時々こうなるんだ。
初めての事じゃないし、俺達も馴れてるから平気さ。」
「そう…。
なら、安心だけど…。
本当に御免なさいね…。」
事態は、初の合コンだった大妻の時以来の不祥事となった。
彼女達はタクシーで帰って行った。
駅前で彼女達を見送った後、淳一は再度重い気分で店へ戻った。
先生は動く意志を見せず、誰かが身体に触ると激しく暴れた。
淳一と西沢は先生の手を持って、脚をばたつかせわめく彼を、力ずくで床の上を引き摺って行き、エレベーターに乗せた。

 何とか外へ引き摺り出した先生を、コンクリートの壁に縋らせて、三人は少し休む事にした。
先生は再び嘔吐を繰り返した後、しばらく静かになったが、やがて「寒い…。」と云ってガタガタ震え始めた。
彼の顔は、蒼白窮まっていた。
「おい、こいつ、急性アル中じゃねぇだろうな…?」
西沢が云った。
「酒は呑み馴れてるから、心配要らないと思うが、万一って事がな…。」
淳一は云った。
三人は次第に不安になり、一応病院へ連れて行こうという事になった。
我々は、急性アルコール中毒で、次の朝ポックリ死んでしまった学生の話を幾つか聞いて知っていた。
中には、夜二人で酒を呑み、したたか吐いた後「もう、大丈夫だ。」と云って眠った友人が、翌朝、隣で冷たくなっていたというのもあった。
野口が119番に電話し、やがてサイレンを鳴らして救急車がやって来た。
淳一が救急車に付いて乗り、西沢と野口はタクシーで代々木の救急病院へ行った。

 淳一達三人も、その夜はやはりかなりの酒を呑んでおり、私や柴山の様に酷く酔った者がそばに居たため、気分をしっかり保てたに過ぎなかった。
病院の廊下で柴山を待っている間に、三人の身体も、その夜血液中に侵入したアルコールを感じ始めていた。
疲れも手伝って、三人とも長椅子の上でぐったりしていた。
柴山は、なかなか病室から出て来なかった。
看護婦が出て来て、「今、注射を打って寝てますから、眼が覚めたら連れて帰って結構です。」と云った。
柴山はそれから1時間以上眠っていた。
三人も廊下の椅子に座ったまま、浅い眠りに就き始めた。
終電も疾うに終わってしまった頃、病室のドアが勢いよく開き、柴山が出て来た。
顔色はほぼ戻っていた。
「やあ、悪い、悪い! 
今夜は酔っ払っちまったなぁ…! 
さあ、帰ろうぜ。」
元気に柴山は云った。
三人は蒼い顔をして立ち上がった。
「何なんだ…? 
こいつは…。」
救急病院を出た三人と柴山は、どちらが患者だったのか解らない様子だった。
「もう寝るぞ。
すぐ寝るぞ…。」
「ここから一番近い奴の家は…?」
「鉄兵の処だな…。」
四人はタクシーに乗り、沼袋へ向かった。 ──
作品名:愛を抱いて 19 作家名:ゆうとの