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監禁愛~奪われた純潔と囚われの花嫁~(完結編)

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 翌日はまた学校を休んだ。少し動いただけで、腰に鈍い痛みが走って動けない。昨日の乱暴な営みが原因なのは判っていた。午前中、ベッドに潜り込んでうとうとと微睡んでいた時、枕許のケータイが鳴った。
 エグザイルのチューチュートレインが鳴りだし、愛奈の意識は浅い眠りの淵から浮上した。
「―もしもし」
 幾分くぐもった声音で話すと、深いバリトンの声が聞こえてくる。
―今、どこにいる?
「マンション」
 応えてやりたくなどないが、それもできない立場が口惜しい。
 意外そうな声が返ってきた。
―学校は行かなかったのか?
「腰が痛くて、歩くのもやっとなの。登校なんて無理よ」
 電話の向こうで小さく笑う声が聞こえた。
―なるほど、そういうことか。やはり、お前を大人しくさせておくには抱いてやるのがいちばんみたいだな。
 誰のせいでこんな風になったと思っているのか。そう罵ってやりたかったが、グッと込み上げる怒りを抑えた。
「何かご用?」
 わざと馬鹿丁寧に訊ねてやっても、相手には一向に通じていない。
―廊下を見てみろ。そろそろ食事時だろ、俺がいなくても食事はきちんと取れよ。身体を休めるのは良いが、食事も忘れて眠りこけるのは感心しないからな。
 愛奈が応えないので、しばらく沈黙があり小さな溜息が聞こえた。
―今は飛行機の中だ。
 誰もそんなこと訊いちゃないわよ。
 心の中でまた悪態をついてやる。
―俺がいなくて淋しいだろうが、良い子で待ってろ。帰ったら、それこそまた腰が立たないくらいに何度でも抱いてやる。
 そのときだけハッとするような艶めいた官能的な声音になった。男の色めいた声を聞いただけで、カッと身体が火照った我が身がつくづく情けない。気のせいか、下肢がわずかに濡れているような気もするが、それは考えないことにした。
 それで電話は向こうから切れた。
「あの助平、変態、鬼畜、淫乱レイプ男」
 思いつく限りの言葉で罵倒してみても、心はいっかな晴れない。とりあえず廊下を見てみようと痛む腰を庇いながらベッドから出る。案の定、ドアは施錠が外されていた。そっとドアを開けると、いつの場所にはトレーと小さなバスケットが置いてある。
「何?」
 バスケットとトレーを持ってまたゆっくりと時間を掛けてベッドに戻った。ひとまずトレーを側に置き、先にバスケットを開けると、途端にミャーと真っ黒な猫が顔をちょこんと出した。
「お前」
 愛奈は歓声を上げた。黒猫のエメがつぶらな瞳をキラキラさせて愛奈をじいっと見つめている。
「エメ、元気だったのね」
 愛奈は両手を伸ばして子猫を抱き上げ、胸に抱きしめた。ミャアとエメも甘えた啼き声を上げて愛奈のふくよかな胸に顔をすりつけた。
 拓人が留守中も、着ることを許されているのはこの部屋では透ける薄物の夜着だけだ。子猫が甘えて胸に顔をすりつけてくると、あろうことか、愛奈の乳房の先端がこすられて固くなった。
「やだ」
 愛奈はあまりのことに唇を噛んだ。
―私の身体、本当にどうかしちゃったのね。
 快感なんて何も知らなかったこの身体をここまで淫らに作り変えたのは拓人だ。一日に幾度も抱かれ、泣いて許しを請うまで徹底的に犯され続けた。
 もう、自分が昔の無垢だった頃に戻ることは二度とないのだろう。それを思うと拓人が堪らなく憎く恨めしかった。
 そこで、はたと気づく。それにしても、何故、子猫が突然、戻ってきたのだろう。ネットカフェで拓人に連れ去られて以来、エメとは離れ離れになってしまった。元々野良の子だったのだし、自分は籠の鳥のようにここに閉じ込められたきりだから、探しにゆくこともできない。
 もう二度と逢うことは叶わないと諦めていたのだ。それが、今になって、ひょっこりと戻ってくるなんて。
 だが、エメがバスケットに入って一人で戻ってくるはずはないのだ。愛奈の脳裏に一人の男の顔が浮かんだ。エメをここに連れてこられるのは、悔しいけれど、あの男しかいない。
 何て憎らしい男。愛奈の身体を欲しいままに弄び慰み者にする癖に、ふっとこんな意外な優しさを見せたりする。
「反則よ、こんなの」
 愛奈はエメのすべすべした毛並を撫でながら一人、呟く。子猫は痩せてもいないし、気の艶も良い。どう見ても、誰かがきちんと世話をしていたとしか思えない。そして、それができるのは恐らく、ただ一人。
「こんなことをされると、憎めなくなっちゃうじゃない」
 愛奈はふるふると首を振った。いいえ、騙されるものですか。こんなことくらいで、私の気持ちを無視して好き放題にしたことを許せるはずがない。
 愛奈はともすれば萎えそうになる反抗心を奮い立たせる。だが、思えば、拓人がわざわざ海外に向かう飛行機の中から電話をかけてきたのも、エメのことを知らせたいからだったに違いない。
 残酷で優しい男。昔は彼が大好きだった時期もあった。今は大嫌い。あいつが私の身体をまるで玩具のように扱うから。籠の鳥のようにここに閉じ込めるから。
 拓人を嫌いな理由は幾つでもあった。でも、心のどこかでいまだに憎みきれない、嫌いになりきれない部分があることを、愛奈はよく知っている。
 それが何故なのかは判らなかった。ここまでとことん人格を無視された扱いを受けているのに、何故―?
 早くあの男が帰ってくれば良い。唐突に浮かんだ想いに愛奈は自分でも愕いた。
 ううん、あの男が帰ってくれば良いと思ったのは、ただ今のやり場のない感情を彼にぶつけたいからだけよ。こんなもやもやした気持ちはあの男のせいなんだから、あの人に思いきり叫んでやれば、きっとすっきりするもの。
 それが単なるごまかし、自分の本当の気持ちを知ろうとしない自分への言い訳だとはこの時、まだ愛奈は気づいていなかった。

 拓人が海外出張に出てから七日が過ぎた。その間、愛奈はボディガードの運転する車に送り迎えされて、毎日、学校に通った。マンションにいるときはエメと遊んで過ごし、食事も残さず食べた。
 もちろん、断っておくが、食事をきちんと取っているのは何もあの男に言われたからではない。あの男がいなくなって執拗に夜通し責め立てられることもなくなったから、精神的にも身体も解放されて楽になった。だから、長らく感じていなかった空腹感を感じるようになっただけ。
 学校にいるときはケータイの電源は切るが、校門を出るとすぐにオンにする。
 いつケータイが鳴るかを心待ちにしている自分に気づいた時、愛奈は愕然とした。このケータイにかけてくるのは世界で一人しかいない。何で大嫌いな男からの電話を待ちわびるのか、そんな自分が自分で信じられず呆れた。
 そんなときも愛奈は適当な言い訳を考え出して自分を納得させた。これはきっと人恋しいからだと。今の愛奈の世界はこのマンションの中、彼に飼われている鳥籠の中だけなのだから、彼が愛奈の世界のすべてといっても良い。だから、きっと彼からの電話を待っているのだ。彼の声を聞きたいと思ってしまうのだ。