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監禁愛~奪われた純潔と囚われの花嫁~

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「パパが残した借金のこと、拓人さんが全部払ってくれて。幾らアークが大きな会社だっていっても、億単位の出費は経営にも響いたはずだし、本当にごめんなさい。そして、ありがとう。私、これから何年かかっても、少しずつでも拓人さんが払ってくれたお金は返していくつもりだから。多分、一生かかっても、返しきれないだろうとは思うけど、その分は、私にできることなら何でもするということで大目に見て貰うしかないみたい」
「お前が気にすることじゃないさ」
 拓人は短く応えただけで、意識は運転に向けているようである。
「それに、また余計なお金を使わせてしまうことになるかもしれないし」
「まだ、どこかに借金が残っているのか?」
「ううん」
 愛奈は小さく首を振り、うつむいた。わずかな逡巡を見せた後、拓人を見上げる。借金を肩代わりして貰った上に、居候させて貰っているのに、これ以上の我が儘は言えない。
 でも、どうしてもこれだけは果たしたい夢があった。
「私、将来は幼稚園の先生になりたい。子どもが好きだから、たくさんの子どもたちに囲まれて、一緒に遊んだり―そんな仕事がしてみたいって、ずっと思ってたんだ」
「へえ、意外だな、愛奈は子どもが好きなんだ」
 何故か嬉しげに笑う拓人に、愛奈は頷いた。
「意外っていう言い方が引っかかるけど、まあ、良いわ。そうなの、私って、一人っ子だったでしょう、だから、子どもがたくさんいる環境にどうしても憧れちゃうのよねー」
「なら、お前が早く結婚すれば良い。そうすれば、子どももすぐにできるぞ?」
 拓人は相変わらず前を向いて慣れた様子でハンドルを切り続けている。その横顔は特に何の感情も感じられない。
「そういうのじゃないのよ。それはもちろん、いずれは結婚だってしたい、自分の子どもだって欲しいけど、まだ十七歳なのよ。そんなのはまだまだ先のことだし、今はとにかく幼稚園の先生になって、そういう形で子どもたちと拘わっていきたいの」
 しばらく静寂があった。信号の手前で車が一時停止する。拓人がポツリと呟いた。
「それで?」
 話の続きを促され、愛奈は続けた。
「大学に行きたいの。N大の短大部に幼児教育科があるから、今はそこを目標にしようかなと思ってる」
 拓人はハンドルを握りしめたまま、ずっと前方を見つめている。その沈黙は愛奈を息苦しくさせた。
 大好きな従兄と一緒にいて、こんなに気詰まりを感じたのは初めてのことだ。
「でも、別に拓人さんに学費を出して貰おうなんて考えるわけじゃないのよ。基本はちゃんとバイトとかして、できるだけ自分でやっていくつもりでいるの。でも、最初の入学金とかはどうしても拓人さんに借りなきゃ駄目かもしれない。そのときはまた無理をお願いすることになるけど」
「俺は別にお前に金を貸した憶えはないし、これからも貸すつもりはないよ」
「拓人さん―」
 言葉の意味を図りかね、愛奈は視線をさまよわせる。信号が再び蒼になり、拓人は車を発進させた。
「俺らの間で金を借りるも返すもないだろう? そんな水くさいことを言うな」
「ありがとう」
 愛奈は熱いものが込み上げ、眼を潤ませた。
「馬鹿だな、泣かなくても良いだろ」
 拓人は洟を啜る愛奈にハンカチを差し出してくれた。
 拓人さんはやっぱり優しい私の大好きなお兄ちゃんだわ。愛奈は涙の浮かんだ瞳で拓人に微笑み返した。
 
 Confusion(混乱)

 拓人の運転するポルシェがN高校前の校門から校庭に入る。校庭には、まだ校庭に居残っている生徒や面談に来た保護者の姿がちらほら見えた。その皆が一様に見るともなしにポルシェを見ている。
 やはり電車で来れば良かったと、愛奈は心で呟いた。だが、拓人は頓着しない様子で駐車場スペースに車を停車させた。
「行くぞ」
 皆の視線が気恥ずかしくてなかなか車から降りられない愛奈のために、拓人が先に降りて外側から助手席のドアを開けてくれた。
 今日の拓人は会社から直帰したので、いつもの仕立ての良いビジネススーツだ。ペ・スビン張りの端正で甘い風貌に品の良いスーツとくれば、これはもう女子高生の注目を浴びないはずはない。案の定、車から降りた拓人を見た数人の一年生らしき女の子たちが興奮した様子で彼を見ては何やら声高に囁き合っている。
―ああ、拓人さんが一人いるだけで目立っちゃうのに、こんな外車でいきなり乗り付けたら、余計に悪目立ちするのは想像がついてたはずなのに。
 しかも、そのイケメンがさっと外側からドアを開けてくれて、愛奈は車から降りるわけである。これまた公立高校ではついぞお眼にかかれない異様な光景ではある。
 恥ずかしいったら、ないわ。愛奈は頬が熱くなり、あまりの恥ずかしさにうつむき加減に歩いた。
 しかし、ご当人の拓人はそういう女子の熱い視線を浴びるのは慣れているのだろう。別段、周囲を気にすることもなく堂々としたものだ。N高校は公立で、歴史も古いが、二つある校舎は数年前に新築したばかりで、まだ見た目も新しく近代的だ。
 拓人は物珍しげに周囲を見回している。彼は地元の名門私立大の附属高校を卒業しているから、こういった公立高校の雰囲気は知らないのだろう。
「愛奈の教室はどこ?」
「後ろのB棟の四階よ」
 愛奈は拓人の方は見ないで口早に応えた。
 拓人は訝しげに眉を寄せている。
「どうした? 顔が紅いぞ。熱でもあるのか?」
 いきなり手を伸ばして頬に触れる。その刹那、少し前方でキャッーと歓声が上がった。愛奈が恐る恐る声のした方角を見やると、先刻の一年生女子たちがまだ同じ場所にいて、愛奈たちの方を指さして囁き交わしていた。
―うー、何よ、あの子たち。見せ物じゃないだから、さっさとどこかに行きなさいっていうの。
「ねえ、拓人さん。早く行きましょう」
 愛奈は拓人の腕に自分の腕を絡め、引っ張るようにして歩き出した。また前方でキャーと歓声が上がったが、もうそちらは見ないで全速力で歩く。とにかく物見高い野次馬の眼から一刻も早く逃れたい一心だ。
 だが、その読みは甘すぎた。校内にもまだ当然ながら生徒は残っている。しかも、今日は三年生の三者面談の日だから、保護者までいる。拓人と並んだ愛奈を物珍しげに見送るのは何も生徒だけではなく、保護者も似たようなものだった。
 暦は既に六月に入っている。それでなくても日中はもう初夏並みの陽気だから、四階まで上がりきる頃にはもう汗だくになっていた。
 拓人の家で暮らすようになった頃はまだ冬服だったけれど、もちろん今は夏服だ。N高は基本、女子は夏も冬もセーラー服である。冬は紺色でスカーフは白、夏は白で生地も薄手だ。スカーフの色は鮮やかな臙脂色になる。
 どちらも女子には可愛いと人気があり、愛奈も好きなデザインだ。四階の隅っこの教室の前まで辿り着いたときには、全身に玉の汗が浮いていた。それはもちろん拓人も同じだろう。これからの夏場にはスーツはかなり暑そうである。
「お前、ちょっと気を付けた方が良いぞ」
 拓人が小声で耳打ちするので、愛奈は小首を傾げた。
「なに? どうかした」