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監禁愛~奪われた純潔と囚われの花嫁~

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―この味噌汁の味はお袋が作っていたのとそっくりだよ。
 眼を細めて美味しそうに食べる彼を見るのが愛奈も嬉しかった。
 ちなみに、彼の母親は今も健在である。この母美奈子というのがまた何かと話題になる女性なのだ。拓人の父が飛行機事故で亡くなったのは丁度十年前になる。商用でオーストラリアに渡る途中で起きた痛ましい事故の犠牲となった。その事故は世界中のテレビでも大々的に取り上げられ、多くの犠牲者を出したことで今も語り継がれている。
 父の突然の逝去で、当時、私立高校三年だった拓人が代表取締役に就任し、その補佐には亡父の秘書だった男が付き、後見人はまだかくしゃくとしていた大叔父―つまり父の叔父に当たる男が副社長として付くことになった。
 しかし、弱冠十八歳の少年は最初から補佐も後見も必要なかった。当初はお飾り社長になると誰もが思っていた高校生は自分から十指に余る傘下企業を擁するアークコーポレーションの経営に乗り出した。
 それが成功をおさめ、企業新聞や経営雑誌、テレビにまで?現役イケメン高校生社長?として取り上げれ、彼は一躍有名人になる。しかも、端正で甘いマスクと長身の均整の取れた体?が俳優、モデル並ともてはやされ、女性雑誌の表紙を飾ったこともあった。
 アークは彼が社長になってからますます台頭し、傘下企業も格段に増えた。
 彼の母美奈子が平城家を出ていったのは、そんな頃、アークが順調な滑り出しを見せていた時期であった。何と彼女はカルチャースクールのハワイアンダンス教室で知り合った講師の青年と電撃入籍を果たしたのだ。
 当時、美奈子は四十五歳だったけれど、その若々しい美貌は到底大学生の息子がいるようには見えなかった。更に世間を驚愕させたのは、その時、既に美奈子は新しい夫となった男の子どもを身籠もっていたことだった。
 こうして美奈子は四十五歳にして?デキ婚?を成し遂げ、十六歳年下の二十九歳の若い夫とともにハワイへと移住していった。今から八年前の拓人が大学二年のときのことだ。その二年後、拓人の母は年下の夫との間に更に第二子を儲け、現在もハワイで夫や息子と娘に囲まれて幸せな第二の女の人生を生きている。
 美奈子の生き方を世間ではけして良く言う人ばかりではない。良い歳をした四十女が息子のような若い男とできちゃった結婚をし、海外に渡った。その奔放ともいえる生き方を更にドラマティックに書き立てた女性誌もあった。美奈子が有名人ともいえる拓人の母であることもいっそう、その話題性を高めたともいえよう。
 愛奈自身は美奈子とはあまり面識はない。若い頃から彼女はいつも出歩いていて、何かしらやっていた。しかし、たまに顔を合わせると親しく声をかけてくれたし、印象としては悪くはない、溌剌とした女だったように思う。
 愛奈の母のように、女は夫の言いつけには従順であるべきだと考えているような女とは対極にある女性だった。まだ十七歳の愛奈にはどちらが理想的なのかは判らない。ただ、息子の拓人が母親のそんな生き方を認めて祝福しているのであれば、他人が口出しするべきことではないと考えていた。
 だが、美奈子の作った味噌汁の味を懐かしげに語る拓人の様子からは、少なくとも彼にとって彼女は良い母親であったのだとは十分に理解できた。
 拓人と暮らし始めて二週間以上が経っていた。つい昨日まではこんなにも近くにいた人が今朝はもう遠い存在になってしまった。
 これまで従兄としてしか認識していなかった彼からの突然の求婚。それを契機として、愛奈は改めて考えてみた。拓人は自分にとって、一体、どんな存在なのか、自分は拓人をどう思っているのか。
 けれど、どれだけ考えてみても、?大好きな従兄?以上の応えは出てこない。つまり、昔も今も愛奈にとって、拓人は兄のような存在でしかないのだ。そんな彼をどうして男性として受け容れることができるだろう?
 そこで、思考はやはり昨夜と同じ位置に戻ってくる。拓人の自分への気持ちを知ってしまった以上、この家にはいられない。拓人の側にもう愛奈の居場所はないのだ。ならば、ここを出ていくしかない。もちろんゆく当てはないのは昨夜と変わりないけれど、かといって、いつまでもずるずると惰性でここにいるべきでないのも判っていた。
 拓人の想いに応えられない以上、自分はここにいる資格はない。彼にとっても目障りなだけだろうし、好意に甘えて居候することは人として許される行為ではなかった。 
 また、拓人から仕掛けられた濃厚なキスを思い出すにつけても、いつまた彼があんな淫らなふるまいに及ぶかもしれない。そういう危険性も踏まえての判断は、やはり拓人の側にいてはいけないと愛奈に告げていた。
 拓人意外に頼れる親戚もいない。めぐる想いに応えはない。愛奈は進退窮まっていた。その朝は到底拓人と顔を合わせる気にもなれず、食欲もなかったので、八時過ぎに家を出た。大抵なら拓人が七時半に迎えにきた専用車で出勤した後、愛奈もすぐに家を出る。しかし、今日はこの分では遅刻は間違いないだろう。
 案の定、その日は高校に着いたのは九時を回っていた。昼休み、愛奈は担任の大木先生から生徒指導室に呼ばれた。職員室では何かと人眼があるから、二人だけで話せる場所を選んでくれたのはありがたかった。
「昨日の今日だから、僕も心配していたんだが、どうだ、あれから従兄とは話はできたか?」
 大木先生も気にしてくれていたのだ。愛奈はゆっくりと首を振った。
「やっぱり、駄目みたいです」
「そうか」
 大木先生は難しい表情で考え込んだ。
「君の従兄は本気で安浦と結婚しようというのか?」
 これにも愛奈は頷くことで肯定の意を示した。
「他人の恋愛に首を突っ込むのは野暮と言いたいところだが、僕は安浦の担任だしなぁ。それに、結婚云々はともかく、そのために大学進学を断念しろだなんて、あまりにも身勝手すぎる。結婚するならするで構わないが、何故、そんなに急ぐんだ? まさか子どもが?」
 大木先生の言葉に、愛奈は真っ赤になった。
「とんでもないです。私と従兄はまだ全然、そんな関係じゃないですから。先生まで人聞きの悪いことを言わないで下さい」
 そんな関係じゃないと言ってから、昨夜の淫らなキスが突如として頭に浮かんだ。その拍子にカーッと顔中に全身の血が集まってきて、ますます頬が赤らむのを自覚してしまう。
 そんな愛奈を複雑そうに見つめ、大木先生は静かに言った。
「それで安浦、君自身はこれからどうするつもりなんだ?」
 大木先生は愛奈を見つめながら、軽く頷いた。
「いずれにせよ、僕は担任としても一人の大人としても、君個人の意思を最大限尊重したいと思うんだ。君の人生は他の誰でもない君自身のものだからね。長い人生をこれからずっと後になって振り返った時、後悔しないような生き方を君にはして欲しい」
「先生、私」
 愛奈は開きかけた口をつぐんだ。わずかに躊躇ってから、ようよう続ける。
「どんなに考えてみても、まだ結婚は考えられません。それに、拓人さん―従兄に対しても、幼いときから兄に対するような感情しか抱いてこなかったので、彼との結婚そのものについても自分がどうしたいのか判らないんです」
 と、大木先生は意外なことを言った。