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監禁愛~奪われた純潔と囚われの花嫁~

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「安浦は彼との結婚が嫌というわけではないのか?」
 いや? 拓人さんとの結婚が嫌―。
 初めて突きつけられた問いに、愛奈は言葉を失った。彼女は視線を揺らし、あからさまな戸惑いを面に浮かべた。
「正直、そんなことは考えてもみませんでした。私がいやなのは今すぐに結婚しろと命令のように強制されることなので」
 そんな風に傲岸に命じてくる拓人自身も嫌いだと思い込んでいた。けれど、真実はどうなのだろう。そういえばと、愛奈は改めて思い出す。
 昨夜、強引にキスされたときも、あの行為そのものに嫌悪感は抱かなかった―。あれはファーストキスだったのに、拓人にいきなり奪われたときもショックで哀しかったけれど、けして不快感や嫌悪は感じていなかった。
 無意識の中に唇に触れている愛奈を見つめ、大木先生は言った。
「僕の話が参考になるかどうかは判らないが、ちょっとだけ聞いて欲しい。僕が嫁さんと結婚を決めたのはごく単純な動機だった」
「先生と奥さんって、確か中学生のときからの恋愛結婚なんですよね」
 授業の合間に幾度も聞かされた惚気話なので、周知のことだ。
 大木先生は年甲斐もなく頬をポッと赤らめている。
「まあ、な。それはともかく、僕はこれからの人生をずっとこいつの側で過ごしたい、そう確信したから、嫁さんと結婚したんだよ。結婚は恋愛とは違うとかよく世間では言う。それは確かにある一面の真実ではあるが、結局、基本は同じところにあると僕は思ってるんだ」
「基本、ですか?」
「そう、この人といつも一緒にいたい。その笑顔だけでなく泣いたり怒ったりする顔も全部見てみたい―、そういう気持ちになることが人を愛する瞬間じゃないかと思う」
 愛奈の耳奥で昨夜聞かされた拓人の言葉がリフレインした。
―可愛いお前をずっと側に置いておきたかった、いつもお前の笑顔を見ていたかった、ただそれだけだったんだ。
 それでは、拓人さんは本当に私を必要としてくれているの?
 別に彼の気持ちを疑うつもりはなかったけれど、その想いの中身までじっくりと考えるだけのゆとりはなかったのだ。従兄としてしか見てなかった拓人からの突然のプロポーズはそれだけ衝撃的だった。
「どうやら安浦も彼のことは嫌いではないようだな」
 大木先生は笑い、すぐに表情を引き締めた。
「しかし、幾ら好きだとしても、その気持ちを押し通すためにお前の未来を歪めたり奪ったりすることは許されないよ。いや、好きだからこそ尚更、相手の意思を大切にしてあげるのが本当の愛というものだ。結婚そのものは君たちの問題だし、僕が口を挟む気はないが、進学については慎重を期する必要があるね。とにかくもう一度、君の従兄と話をしてみよう。何とか進学を認めさせるように説得するから」
「ありがとうございます」
 愛奈はペコリと頭を下げた。
「先生、私、従兄の家を出ようかと考えています。先生の言うように、私はもしかしたら、従兄を嫌いじゃないのかもしれない。でも、今のままの中途半端な気持ちで彼の家に居続けるのは従兄に対しても自分にとっても良いことじゃないと思うから。もっと一杯考えて、自分の気持ちやこれからどうするかが見えてきたら、そのときに彼と向き合おうと思ってます」
「そうだな、先生もそれが賢明な判断だと思うよ。従兄妹同士とはいえ、彼も独身で若いのだし、ましてや、彼は安浦と結婚したいとまで言っているのだから、やはり君が彼との結婚を前向きに考えられるようになるまでは同居すべきじゃないだろうな」
「はい」
 愛奈が頷いた時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「それで、安浦、彼の家を出て、どこか身を寄せる当てはあるのか?」
 大木先生の言葉に、愛奈は小さく首を振った。
「僕のところに来いと言ってやりたいのは山々だが僕もこれでも一応、若い部類には入るしなぁ。嫁さんと子どもがいると言っても、年頃の女子生徒を自宅に住まわせたとなると、僕だけではなく君までもが心ない噂の的になってしまう」
 愛奈は明るく微笑んだ。
「先生、ありがとう。私は先生のその気持ちだけで十分です。私なりに色々と考えたんですけど、思い切って児童保護施設に行こうかと思うんです。私はもう十七歳だから、あと少ししか居させては貰えませんが、卒業までまだ数ヶ月先はあるでしょ。だから、その猶予期間の間にバイトとかしながらできるだけお金を貯めます。できれば住み込みで働かせて貰えるところを見つけたいの。もちろん、進学も諦めません。受験もして、働きながら大学に行く方法を考えます」
「そうか、そこまで考えたのか」
 大木先生は感に堪えたように言い、大きく頷いた。
「お前ならできるよ、安浦。僕はお前のような生徒が自分の教え子であることを誇りに思う」
「はい」
 愛奈も大木先生の眼を見つめ返しながら頷いた。
「さあ、次の授業が始まる。もう行きなさい」
 温かく言われ、愛奈は立ち上がった。
「ありがとうございました」
 それからドアを開けて出ていく間際、振り返った。
「先生、素敵な奥さんとお幸せにね」
「なっ、おい。大人をからかうもんじゃないぞ」
 男にしては色白の顔を真っ赤に染めた大木先生が狼狽えている。愛奈は笑いながら生徒指導室のドアを閉めた。