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監禁愛~奪われた純潔と囚われの花嫁~

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「相手は幾ら従兄はいえ、若い男だぞ? あんなことを言っている以上、こんな言い方はあけすけかもしれないが、彼が安浦に手を出さないとは限らない。どこか別に身を寄せる場所、親戚とかはないのか?」
 愛奈は微笑んだ。
「先生、ありがとう。でも、大丈夫、拓人さんはそんな男じゃないの。きっと何か理由があって、あんなことを言ったんだと思うから、ちゃんと話し合えば判ってくれると思います。だって、拓人さんのところで暮らすようになってもう半月近くになるだもの。これまで何もなかったんだから、大丈夫よ、先生」
 さよならと、愛奈は屈託ない笑顔で大木先生に手を振って教室から出た。
 だが―、大木先生は深刻な表情で考え込んでいた。

 学校の帰り道、二人はフレンチレストランで少し早めの夕食を取り、帰宅した。このレストランは雰囲気はカジュアルだが、出す料理は本格的だ。店長は本場パリで数年間修業した後、日本の某有名ホテルで働いて、独立開業した。
 深海の水底(みなそこ)を思わせる店内は鮮やかなロイヤルブルーで統一されている。毛足の長い絨毯も壁も深い蒼で纏められ、照明は極限まで落とした、やわらかなブルーだ。店内はさほど広くはなく、テーブル席が十数個あるだけ、二人が寄ったのはまだ夕方早い時間だったので、店内はさほど混んではいなかった。
 いつもは会話も弾むのに、その日は殆ど会話らしい会話もなく、食事が済むと早々に二人は席を立った。車の中でももちろん話をすることはなかった。
 夜になった。机の上の置き時計を見ると、既に十時を回っている。拓人は明日も忙しいのだろうから、彼のことを思えば、こんな夜分に話をするのは避けた方が良いのは判っていた。でも、やはり、今夜中にどうしても話がしたかった。
 幼稚園の先生になるのは子どもの頃からの夢なのだ。しかも、それが入学金免除の特待生として進学できるというのなら、尚更、その可能性を諦めたくはない。
 拓人は一階の書斎にいた。ここならば二階の彼の私室と異なり、愛奈も何度も出入りしたことがある。広い空間にはオーク材のどっしりした机があり、片面の壁には作り付けの書棚をありとあらゆる蔵書が埋め尽くしている。もう片側は大きく切りとられた窓になっている。
 今は既に窓は分厚いゴブラン織のカーテンに覆われていた。
「拓人さん」
 ノックをしても返事がなかったので、愛奈は思い切ってドアを開けた。
「拓人さん?」
 拓人は机に向かい、ぼんやりと肩肘をついていた。片手にはチューリップ型をしたウイスキーグラスが握られている。傍らにウイスキーのデキャンタが置いてあるところを見れば、一人で飲んでいたのだろう。
 視線はいつもの彼になく、焦点が合っているようで合っていない。何度か呼ぶ中に、やっとハッとしたように愛奈を見た。
「今、少しお邪魔しても良い?」
「あ、ああ」
 これもいつもの彼らしくなく曖昧に頷く。ここで言葉を弄しても意味がない。徒(いたずら)に時間が過ぎていくだけだ。愛奈は思い切って話を切り出した。
「昼間の面談の続きなんだけど」
 彼からの返事はなかった。愛奈は軽い失望を憶えながらも、心を奮い立たせた。
「あれって、本気なの?」
「本気、とは?」
 質問を質問で返され、愛奈は言葉を失ってしまう。
「結婚がどうこう言ってたけど、あれって何かの誤解か間違いよね」
「普通、誤解や間違いで、結婚の話なんかするか?」
 愛奈は困惑して言った。
「何で、そんなこと」
 拓人がこの時、初めて愛奈を見た。
「俺がお前を愛してはいけないのか?」
「拓人さんが私を愛して?」
 愛奈は自らの言葉で話すことを放棄した鸚鵡のように茫然と彼の言葉をなぞった。
「そうだ、俺はお前が好きだ、いや、そんな中途半端な言い方じゃ足りないくらい、愛している。お前が小さいときからずっと愛奈だけを見てきた。愛奈が一人前の女になるのを待ってたんだ」
「待って、拓人さん。それはもちろん私も拓人さんを好きよ。でも、その好きっていうのは、拓人さんが言うようなものじゃないと思うの。私は拓人さんをいつも親戚のお兄ちゃんとしてしか見たことがなかったから、今になって、そういう意味の好きだとか愛してるだとか言われても困る」
「今は従兄として好きなだけでも良いんだ、一緒に暮らしていく中に愛情が芽生えるかもしれないぞ」
 拓人の言葉に、愛奈は押し黙った。
「それにしても、結婚を考えるのは大学を出た後でも十分だわ。まずは大学に行って、それからちゃんと自分を活かせる仕事に就いて、世の中を見てみたいの。結婚の話はそれからゆっくりと考えさせて」
 愛奈は言葉を選びながら懸命に言った。だが、拓人の応えは無情だった。
「駄目だ。大学には行かせない。愛奈は高校を卒業したら、俺と結婚するんだ」
 あまりにも愛奈の意思を無視した言い方に、愛奈もつい頑なになった。
「何故、そんなことばかり言うの? 私は大学に行きたいし、まだ結婚なんて考えられないの。拓人さんがどうして私の未来を勝手に決めるのよ!」
「どこが勝手なんだ? 俺はお前のために良かれと思って」
「どこが良いの? 結婚したくないって言ってるのに、結婚しろと強要されて、そんなのが幸せ? 愛してもない男にプロポーズされて、それで歓べというの」
 つい口走ってしまった言葉に、拓人の形の良い瞳に絶望が浮かんだ。
「愛奈、俺はお前に愛されていないのか? ブロポーズしてもただ疎ましいと思われるしかないほど嫌われているのか―」
 こうなると、売り言葉に買い言葉だ。言ってはならないとしきりに告げる心の囁きを無視して、愛奈は叫んだ。
「そうよ、そんな勝手な拓人さんなんて、私は大嫌い。結婚なんてしない」
 愛奈が叫んだその時、拓人がユラリと立ち上がった。彼はゆっくりとした足取りで近づいてくると、哀しみに覆われた瞳で彼女を見つめた。
「お前は俺の夢そのものだったんだよ、愛奈。いつも人形のように愛らしくて、にこにこ笑ってて、その笑顔だけで心が癒されるよう気がしたよ。お前がまだ小学校に上がる前から、俺は将来、妻にするのならお前だと決めていた。だから、叔父貴には申し訳ないけど、お前を引き取るこのときが長年の夢を果たすチャンスだと思ったんだ。これでやっと、お前が俺のものになると」
 初めて知る従兄の真実に、愛奈の声が震えた。
「じゃあ、拓人さんが私を引き取ってくれたのも、借金を肩代わりしてくれたのも、全部そのためだったの? 最初から私を好きなようにするために、全部やったことなの」
 そんなのって、酷い。愛奈の小さな心は哀しみに張り裂けそうだった。
「私はいや。それじゃ、あのサラ金業者の言うなりになるのと変わらないよ。私は拓人さんにお金で買われたの? 拓人さんは私を買ったの? だから、拓人さんの言うことだけを聞いて夢を諦めなくちゃならないの」
「違う、そうじゃない」
 拓人は烈しく首を振った。
「俺は別にそんなつもりじゃない。お前を金で買っただなんて、ましてや金で縛って自由を奪うなんてつもりはなかった。ただ、愛奈が欲しかったんだ。可愛いお前をずっと側に置いておきたかった、いつもお前の笑顔を見ていたかった、ただそれだけだったんだ」