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ミステリー短編集  百目鬼 学( どうめき がく )

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 ユーリン、恋人平イズミに絞め殺される。
 動機はユーリンの二股か?
 証拠は揃った。殺人鬼となってしまったイケメンに、もう明日はない。
 多くのファンから、雲隠れを止め、早く自首を! との声が上がってる。

 こんな報道が連日繰り返されるが、事件の進展は見られない。デスクで脳みそを絞る百目鬼、うーんと呻き、芹凛に告げる。「もう一度蜻蛉を洗い直そう」と。
「あら、美人だから?」
 芹凛がこう冗談で返すと、「バカモン!」と大目玉が飛んできた。こんなやりとりの後、二人は再度現場へと戻り、丹念に聞き取りをし直した。

 そして捜査本部へと戻ってきた芹凛、「平貴蜻蛉は平家の落人の娘、あんな大きな屋敷のお姫さんだったなんて。さらに驚くことに、村人さえも会ったことがない、蜻蛉には双子の姉、蛍子というもう一人の姫がいたとは。その上に、平貴家を守るため村人は何でも実行し、奉仕するという掟があるなんて……、すべてがミステリーだわ」と呟き、コーヒーでもと百目鬼にカップを差し出した。

 百目鬼はわかってる、芹凛がほぼ推理を組み立て終えたのだと。さあ言ってみろと目で指示を飛ばすと、今日の芹凛は違っていた。
「こんなおどろおどろしい因縁話しは、まずは刑事のお考えを聞かせてください」と睨み付けてきた。百目鬼はボス、ここは部下の手前引き下がれない。苦いコーヒーをぐいっと飲み干した。それからあとボソボソと語り始める。

 平貴家は由緒ある平家の末裔、家系を守る必要がある。そこで深窓の麗人、長女の蛍子に婿を迎えたい。
 そこへ平家に関わりがあると思われる平イズミがユーリンと現れた。これは千載一遇、村人たちは一丸となりユーリンを絞殺した。もちろんイズミの指紋が付いたベルトを使って。

 こうして平イズミを犯人に仕立て上げた。つまりイズミの未来を剥奪したのだ。
 あとは世を捨て、落人となり、平貴家の蛍子と暮らして行くしかない。言い換えれば、現在イズミは屋敷の座敷牢で飼われていると考えられる。