星追い人
「労働の対価くらい寄越せ!」
ガレンが通路側の壁を蹴り上げた瞬間、崖が鈍い音と悲鳴を上げながら崩れた。その様子を唖然と見ていた少女は、崖の上まで辿り着いたガレンとローグに視線を向ける。
「生きたいって言ったろ?」
ぼさぼさになったローグの前髪が、風に揺れた。
「上は遺跡か…月明かりも淡いし、星がよく見える」
楽しげに言ったローグを、熱心に見上げ続けるリアーに彼は視線を向けた。その時初めて、自分の前髪が目を隠せていないことに気づいた。少し慌てて前髪を手で梳くけれど、見られてしまったのは仕方がないと肩を竦めた。そうしてから、リアーは俯いた。
「どうしたの?」
そう声を掛けると、ビクンッと体を揺らす。
「どう、して」「崖が、崩れること…知ってたの?」
「僕が、崖が崩れることを知ってたと思う?」
こくん、と控えめに頷いたリアーを見て、ローグは驚いたように目を大きく開けた。ガレンと顔を合わせ、頬を掻く。小さく震える少女の手をローグは優しく掬うように拾った。リアーの手は驚くほど冷たくなっていて、彼女の顔も血の気が引いたように青くなっていた。そしてもう片方の手で、彼女の頬を撫でた。その目の涙は、まだ当分引きそうになかった。青白い顔とは不釣り合いなほどにぷっくりと赤く腫れてしまっていた涙袋を、優しく指でなぞる。
「君はとても優しい子なんだね…泣かないで」
ローグは地面に膝をついて、リアーの顔を見上げた。
「僕は、向こうの林から平原を通ってこの集落に辿り着いたんだ。その時、首が痛くなるくらいの大きな像が、穴ぼこ集落の上にあることを知った。しかもその穴ぼこ集落はとても広い。あの像がどれくらい前からあるのかはわからないけど、長い間耐えることができるわけはなかった。実際、壁にも亀裂が入っていたし上からは砂が落ちてきたから。それだけ」
「どうして、助けなかったの?どうして、みんなを…助けてあげられなかったの?」
涙で潤んだ目が更に歪む。傷の付いたローグの手を握りながら、リアーはそう言った。
「僕は、優しくない人だから。自分を殺そうとした人間を助けたくはない。それに、その後その人たちはどうやって生きていくのか、考えられる?」
首を横に振ったリアーの頭を、再び優しく撫でる。痛いほど手を握られているけれど、ローグは顔色一つ変えず、諭すように話し続ける。
「君はとても優しい子だ。旅をせず、一つの場所で生きていく時に必要なものをちゃんと持っている。途中まで僕と一緒においで。優しい国で君が住めるようにお願いしてみるから」
「……どうして、わたしを助けてくれたの?」
その質問に、ローグは小さく笑う。
「それはね、君が僕を心配してくれたから」
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