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星追い人

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 ふさふさとしたガレンの尻尾にくるまって、静かな寝息を立てるリアーに手を握られながら、ローグは大きな欠伸をした。

「ねえ、ローグ。俺、今回のことでわかんないこといっぱいあるんだけど、訊いてもいい?」
「いいよ、僕に答えられることなら」

 二人は柔らかいガレンの尻尾に巻かれ、手と手が触れ合うほどの温かさに体を委ねる。

「ローグはいつから生け贄にされるかもって思ってたの?」
「そこから説明すんの?」

 呆れるように深い息を吐き、口を開いた。

「怪しいなって思ったのは、あの爺さんが嬉しそうに近付いて来た時だよ。畑の食べ物が萎びて集落の食料にも困って仕方がないはずなのに、あんなに嬉しそうに近付いて来たんだ。不審がらない方がおかしい」
「そういうことなの?」
「そういうこと。確信したのは、旅人が穴に落ちている壁画を見た時からだな。大雑把にしか描かれていなかったけど、あの服装を見れば集落の人間じゃないことくらいわかる」
「そんなじっくり絵なんて見てなかったからなあ」
「別に見なくてもいいんじゃないか。どうせ死なないんだから」
「滅多なことじゃ、ね。死ぬ時は死ぬよ、生きてるんだもん」

 体を曲げて腕を敷き、顔を乗せて楽な体勢をとるガレンを見ながら、ローグは彼の体毛に頭を埋める。腰を下ろした体勢では寝づらいのか、リアーはガレンの尻尾をベッド代わりにして、ローグの膝に頭を乗せた。彼の手を握りしめたまま、安らかな寝息を立てる。リアーの頭をゆっくりと撫でながら、彼女の睫が微かに動く様を静かに見つめていた。そして、彼女の目に優しく手を置く。

「ローグ」
「何?」
「あの時、わざと飛び降りたんだよね」
「そうだな。怪我したくなかったから」
「それってさ、怪我をせずに皆殺しにするため?」

 抑揚なくそう訊いたガレンに、ローグもまた同じように答えた。

「そうだよ」
「やっぱり。素直に俺が来るの待てば、余裕で蹴散らせたし。ローグってなんだかんだ言いながら結構酷いとこあるよね」
「助かりたい一心だけじゃないけどね。そうなるように仕向けたのは否定しないよ」
「リアーに言った時みたいに、私怨とか大人げないこと言う?」
「まさか。元々この集落へ来るような旅人なんてたかが知れてる。でも、壁画を見てみるとわかるだけでも42人の旅人が死んでるんだ。他の通路を調べると、もっと出てくるはずだよ。こんな辺境に足を運んだ人間が、こんなにも理不尽な生け贄として殺されてるなんて、許せなくてさ」
「でも、ローグはそれと同じくらいの人間を殺したんだよね」
「まあな。どんな理由があろうと許されはしないだろ。特にこの子には」

 視線をリアーに向けたローグは静かに目を閉じる。変わらない表情の裏を読むことはできないと、ガレンはローグを見遣った。

「この穴の底に、どれだけの骨が転がっているんだろうな」
「そもそも、あの穴の底に何があるの?生け贄を捧げるだけで雨が降るなんて」
「さあな。試しに行ってみるのもありなんじゃないか…得体の知れない何かがお前を引きずり込むかもしれないけど」
「……やめた。ローグが言うと本当にそうなるから」

 その言葉に失笑したローグは、濡れた手で髪を掻き上げた。星明かりの下に晒されたその黒い目には、淡い黄金色の環が連なる異質な模様が浮かび上がっていた。

「…痛いよ」

 小さく呟いたその声を小さな耳は拾いながらも、応えることはなかった。

「きっと、穴の底には寂しがり屋が一人いるだけだよ。きっとね」




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作品名:星追い人 作家名:海山遊歩