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星追い人

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 少し離れた場所で、旅人さんと呼ぶ。何度も何度も、声を掛ける。それでも彼は目を覚まさない。旅人さんとは誰だろう、白い靄のかかるぼやけた思考で彼はそう思った。

「旅人さん!」

 目に飛び込んできたのは青い衣を纏った見知らぬ中年の女。ゆっくりと体を起こすと、肩を落とした様子の女が扉の前まで歩いてからローグを手招いた。

「もうすぐ宴が始まりますよ!旅で疲れているのは仕方ないけど、もっと時間を守ってくださいね!その酷い寝癖直して、広間の方に来てください!」

 ぶつぶつと呟きながら出て行った女の背を見送ったローグは、大きな欠伸を一つしてからがりがりと頭を掻いた。布団の中に潜り込んでいたガレンが不快そうな目をして、息を吐いた。

「いつ始まるか聞いてないし、勝手に部屋に入ってきてるし、広間ってそもそもどこ?ここの集落おかしくない?早くご飯食べたい、たらふく食べさせてよ」

 ローグはのそのそと靴を履き、リュックに入っていた水と手櫛を使って寝癖を直す。そして、小さなブラシでガレンの毛を梳いた。

「あぁああああ!ローグ、それ、昨日俺の角磨いたブラシ!洗ってなかっただろ!」

 そんな言葉を叫ばれたけれど、ローグは変わらず汚いブラシでガレンをブラッシングする。次に、ローグは昨日使用した布とはまた別の布に水を含ませ、それで顔を拭いた。伸びをして体を起こし、不機嫌なガレンを連れて場所もわからない広間へと向かった。
 向かう途中、同じ行き先の男に出会(でくわ)し一緒に行くことになった。食料や水を手に入れる場所や、必要な物を揃えるための場所を教えてもらったローグは、頭の中で財布の金勘定を始めた。そうこうしている内に、広い場所に着いた。男とはそこで別れ、昨日この集落に来て最初に会った老人に連れられるまま、数十人が雑然と立っているテーブルの前に儲けられている壇上へと立たされた。壇上に置かれたテーブルの上には、一目で大衆用に作られた料理とは材料も凝り様も明らかに違う料理が、所狭しに並べられていた。視線を移し広間全体を見渡すと、声を掛けてきた少女二人、先程広間まで来た男、眉間に皺の寄っているローグを叩き起こした中年の女を見つけた。そして青々とした景色に、文字通り紅一点、赤い衣を纏った、たった一人の年端もいかない少女が隅に立っていた。

「それでは、旅人様の来訪を祝し!」

 盃を低い背で高々と上げる老人を横目に、控えめな高さで盃を上げた。そこで歓声が岩に反響し、耳に届く。それに眉根を寄せたローグに気づくはずもなく、周囲は盛り上がる。

「さ、旅人様もぐいっと一杯」
「僕、酒だめなので遠慮します。酔ったら何をしでかすのかわかりませんので」

 ローグは丁重にお断りして、席を立った。そして肩に乗っていたガレンが移動して料理を貪り始めた。そういえば、とローグは昨日朝からガレンに何も食べさせていないことを思い出した。頭を撫で、目元をひくつかせている老人に軽く頭を下げてから、大衆の方へと足を運んだ。壇を下りたローグにこぞって近寄る青い衣の民は、さながら獲物を取り囲む獣のようでもあった。ローグは全員に一歩退くように告げてから、訊かれたことに答え始める。どことなくくたびれた表情をしながら、右から左へ、左から右へ、前から後ろへと銃弾のように行き来する言葉を丁寧に返す。

「旅人さんはどうして入り口近くにしたの?」
「あまり暗いところは好きじゃないんですよ」
「旅人さん、この集落の昔話はお聞きになりました?いやあ、本当にあの踊り子様には感謝してもしきれない!なんならその詩を今ここで私が諳んじましょうか!」
「結構です」
「旅人さんはどうして旅をし始めたんですか?やっぱり、昔から旅をしたかったとか?」
「必要に迫られたので、それだけです」
「今までどんな国に滞在しましたか?」
「生き物がたくさんいる国や、豊かな水や自然に囲まれた国など色々な国を回りました」

 ここの集落に住んでいる人のほとんどが長い間洞窟で暮らしていたからなのか、ローグより頭一つ、二つ分身長が低かった。そんなローグの視線は、部屋の隅にいるあの少女の元へ向かった。たった一人ぽつんと立っていて、皿の料理をちびちびと噛みしめるように食べている。そして少女と目が合った時、彼女はとても悲しそうな表情を見せてから、花が萎れるようにゆっくりと俯いた。

「旅人さんは」
「すみません、こちらからもいいですか?」
「は、はい!なんでしょう?」

 桜の花のようにうっすらと色づいている女に、ローグは言葉を続ける。

「祭りの中心となるあの、大きな穴とはどこにあるんですか?」
「ああ、あれはこの崖のずっと奥の方にあります。泉へは行かれましたか?」
「行きました」
「その泉へ入る扉の横に、もう一つ道がありましたでしょう?そこの道を進み、分かれた道が出てきます。そこを右、左、左、右、左、右の順で進んで行くと辿り着きますよ。一度ご覧になりますか?」
「この宴が終わり次第、是非」

 ローグは頭で順序を反芻させながら、場所を少し移動した。そして、今度はそこそこ年のいった男の方へ近寄る。

「よお、旅人さん。楽しんでるか?」
「はい、とても。ところで一ついいですか?」
「なんだ?」

 きょとんとした表情を浮かべた男を見遣ってから、口を開いた。

「この祭りが最後に行われたのはいつですか?」
「そうだなあ、俺がまだ30代の頃だから…大体4年前くらいじゃないか?」
「その前のことは覚えていますか?」
「もう一つ前は多分10年以上前だったと思うぞ?あの時は期間が短かったなあ…」

 目を細めながらそう言った男に一言礼を述べると、彼は手を横に振ってから、前髪で隠れたローグの目を見る。

「どうしてそんなことを?」
「単純な好奇心ですよ。若い方々はあまりこの祭りに馴染みがないようでしたし」
「そうでしたか。まあ、古臭い風習ですよ。あんまり深く考えず、祭りのいいとこ取りでもしてください」
「そうします。ありがとうございました」

 男は朗らかに笑って、近くに置いてあった数が少なくなっている肉料理にフォークを突き刺し、口に運んだ。そしてローグもそれに倣って、口に運んだ。



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作品名:星追い人 作家名:海山遊歩