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涼子あるいは……

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「付け出しはいるかね」
「いらない」
金吾を呼び出した男とは、同じ五小教諭、アジール副委員長の山崎泰男だ。
金吾は、涼子についての情報を得るためには、どんなに不快だろうと、アジールの実質的な頭目である山崎に会わねばならないと思っていた。涼子は山崎たちの仲間内ではどんな立場をとっていたのか。山崎たちは涼子をどう扱っていたのか。何をさせていたのか。結局やつらは涼子に何をしたのか。
ところが、金吾のほうから会見の申し込みをするより先に、山崎が電話をかけてきた。昼間に、森田食堂で極細麺冷やし中華の大盛を食べているときだった。
山崎はどんな意図で金吾に会おうとしているのか。
今までに何度かアジ―ルに参加しろという誘いは受けたが、断り続けてきたので、そのことに関しては、山崎はもう諦めているはずだった。こんな時に、わざわざそれをむしかえすはずもない。
では、金吾の傷心振りを酒の肴にして、涼子との秘め事でも聞き出そうというのだろうか。同情しているふりをしながら卑しい妄想に耽ろうというのか。山崎ならやりかねない。アジールへの勧誘の話をしていた時も、しょっちゅう脱線しては涼子を話題にした。どんな断片でもいいからといった調子で、金吾と涼子とのプライバシーを知りたがった。玄関先や庭の塀越しに人の家の中を平気でのぞく押し売りセールスマンのようだった。
そもそも、今日、山崎が知りたいことは、金吾についてのことなのか、涼子についてのことなのか、金吾はいぶかった。いや、この段階で憶測しても仕方ない。山崎の話を聞くことにまず徹しよう。
金吾は、山崎、あるいは山崎の統括するアジールが知る限りの、涼子の死の真相を探るためにここにやってきた。
ある人間が死んだとき、その人物を生前知っていた者たちは、死者の総括をする。
あの人は結局ああだった、こうだったと。
その人物を殺した人間さえも、つい感慨を述べたくなる。いや、殺害犯こそが最も語りたがるだろう。
なにせ殺したほどに理解していたのだから。
ただし、その甘さは今晩までだろう。だから今日ぜひ山崎に会う必要があった。甘いうちは言葉も軽いだろうから。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦