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涼子あるいは……

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「同じところにいました。彼が山岸涼子に惚れているのは知っていましたので、そろそろ何か言ってくるかと構えていた頃です。しかし、彼はいくら酔っ払っても、一言も涼子のことは口にしませんでしたね。なかなか立派な男だなと思いました。一升瓶を飲み終わったころ、腕相撲をしました。互角でした。そのあと、コンビニのトイレに行き、また、涼子に携帯を入れました。あいかわらず、応答がありませんでした」
袋田の背後から声が上がった。
「田中館先生はいま体育館でバスケのコーチをやってますよ。裏とり、すぐやりますか? 地取りから何人か、帰ってきてると思いますが」
「必要なぁい! 田中館の聴取結果とあっとるだろうが。お前、覚えてないんか! わかってねえなあ。この先生、田中館とは恋敵で、ほんとは仲良しではないんだぜ! しめし合わせて話をでっち上げてるとは、思えんだろうが」
袋田は天井に向かって大声で怒鳴ってから、顎をひいて作り笑いを向ける。
「九時半は?」
「ちょうどマンションに着いてベッドに倒れこんだ時刻です」
「部屋に入る前に、同じマンションの住人と会いませんでしたか?」
「玄関で管理人さんに会釈しただけです」
ついに、自分の部屋に着くまでの十五分刻みの行動記録が出来上がった。
「ふーっ、暑いですな。クーラーがあまり効いとらんですな」と袋田はため息をつき「おーい、麦茶買って来い。うんと冷えたの二缶だぞ」と再び天井を仰ぎながら巡査部長に命じた。
彼が出て行くと、袋田は、両手をひざに置いて顎をなんども突き出しぺこぺこしながらさもすまなそうに言った。人が変わったかのようで驚いた。
「いや、まことに失礼を続けてきまして申し訳ありませんでした。今回の事件への、小生の、のめりこみようをお察し願って、ひらにお許しください。
相手を犯人、ホンぼしと仮定して尋問するのは刑事の癖です。それを相手に気取られないように振舞うのは、刑事の最低のモラルです。礼儀です。小生、最低の刑事なので、興奮のあまりそうできなくなることがよくありましてね。エイ、この際礼儀作法なんぞ無視しちまえ、なんて思うことがたびたびでして。まったくもう、素人衆に不快と迷惑をかけつづけの人生でありました。あなた様の前でも、そんな粗相をしでかしてしまったようで、なんとお詫びしてよいことやら」
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦