涼子あるいは……
さて、確かに遺留品の携帯電話に今おっしゃった八時四十五分の着信記録が残っています。先生は、その後二回被害者の携帯に電話をかけていらっしゃいますね。興味深いですなぁ。なにか気になることがあったから電話をしたんですよねえ。もめごとでしたか? 頭にくることがあって、しかし話そうにも相手が出ないので、いっそ直に部屋へ行ってやれ、なんてこともあったかも知れんですな。内容を具体的に教えていただきませんかねぇ」
「何も特別なことはありませんでした。メールの返事がないので何してるのかなと思ってかけただけです」
客をさっさと追い払って飲みに出て来いよと言うつもりだったことは黙っている。
「仕事が終わってから日に数回電話をかけるのは普通のことでした」
「確かに記録ではそうですね。正確には、お会いにならなかった日には平均七回電話をなさっています。金、土の二日は必ずそうでしたな。あと二日は不定です。残りの三日は電話をなさっていたのはせいぜい昼間の一回か二回ですので、その日の晩にお二人が会っていたことがわかります。落ち合う場所と時刻を調整しあうだけでしたでしょうから。とすると昨日の八時四十五分、九時二分、九時二十三分の三回の送信の意味するところは微妙です。このうちのどれか、あるいはずべてがダミーである可能性もありますしね。
デスクトップのパソコンは通信には使っていなかったようですね。もっとも空っぽだったので中身の調べようがありませんでしたが」
金吾はしばし沈黙して待つ。
あることを確認して緊張する。
金吾も涼子も固定電話は持っていない。連絡するには、普通は携帯のみ、長い内容のものや映像には、ノート型かデスクトップ型のパソコンに携帯をつなげて使っている。
金吾は、袋田の顔をうかがった。袋田は、見つめる金吾を、不審げに見つめ返した。金吾はそ知らぬふうに眼をそらした。
ノート型パソコンがなくなっている。犯人が盗んだにちがいなかった。袋田は気づいていない。
金吾は無表情で、袋田の話に耳を傾ける。