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涼子あるいは……

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「広場のほうで爆竹の音がしてキャーという声があがったのでふり向いた時、風で揺れる飾りの隙間から見えたのです。八時三十二分でした」
「フム、わかりました。しかし、二分違いですな。正確にお願いします」
「二分ぐらい、誤差内に入らないんですか?」
「入りません。被害者のマンションから、駅前通りと銀座通りが交差する四つ角、モスバーガーのあるところまでが、二百四十歩、普通の速度で歩いてちょうど二分です。朝、私が歩いてみました。犯人は、雑踏から抜け出て二分でマンションに着けます。ごく親しい人物のはずですので、被害者はスキだらけの状態だったでしょう。その気でチャンスを窺う犯人は、短時間でけりをつけたでしょう。十分で犯行を終えたとして、さらに二分で雑踏にまぎれこむことができます。十五分あれば犯行と逃走が可能なのです。二分は見逃せません。先生が、被害者の部屋にいるか、モスバーガーでチリドッグを注文しているか、時間差は二分です。
さて、八時四十五分にはどこにいらっしゃいましたか?」
「笹本電気店の隣の広場にいました。多摩自慢の出店の中です。山岸先生の携帯に電話をかけたので時刻を覚えています。正確に四十五分でした。出なかったので、広場で日本酒を出しているから一緒に飲まないか、とメールを送りました」
「広場の中と、そこから見た、通りの様子を言ってみてください」
「石川酒造の長男、次男が、前掛けを締めて、ライオンズクラブの会員といっしょにウエイターをやっていました。二人とも我が校のPTAですので、顔だけは知っていました。栄通りの真上、建物でいうと五六階ぐらいの高さのところに、巨大バルーンが揺らめいていました。バットマンの映画や、ローリングストーンズのコンサートに出てくる、人型バルーンです。二つありました。ひとつは、金髪の超デブの白人女が大の字になって地上を睨みつけているもの。もうひとつは、人型じゃないな、ハリウッド製のゴジラが両手を胸の前に掲げて前傾姿勢で歯をむき出しているもの。そいつらが空をさえぎらんばかりの勢いで押し合いへしあいしていました」
「たしかにそのとおりだったようですな。実際の壮観ぶりは、小生は知りませんが。業者の言うには、バルーンのヘリウムガスを抜いたのは九時三十分から四十分の間でしたからね。飛行船は十時に調布の飛行場に帰って来ています。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦