涼子あるいは……
「刑事さん、先生が犯人だという証拠を見せてください!」
袋田は、後ろ向きに立ったまま首だけねじり、小刻みに蟹のように横歩きしながら、やけくそのように叫んだ、ケツが丸見えである。
「犯人だなんて、おじさん、言ってないぞ! ほかの先生たちと同じように、調べているだけだ!」
「ウソですねっ! 他の先生はすぐに帰ってきたのに、岡田先生だけは、いつまでたっても帰ってこないじゃないですか。岡田先生に無理やり白状させようとかしてるんでしょ? そもそもぉ、他の先生とそんな身体検査ごっこなんてしたんですか?」
袋田は、犬のように唸りながら。熱い風呂に入る時のように、左手を服のほうに伸ばしつつゆっくりとしゃがみこむ。金吾は自分がなにか言わねばならないとあせった。
「先生はね、この方たちと、事件とは直接関係がないお話をして、ついつい長居をしてしまったんだよ。身体検査は、早く身の潔白を知ってもらおうと、先生のほうからお願いしたんだ。警部さんが裸なのは…… うーん、先生も不思議に思う! とにかく、君たち、心配してくれてどうもありがとう。すぐ帰るから教室で待ってなさい」
金吾が言い終わるのを待っていたかのように、町田が端にいる生徒の肩を押して引き戸に向かわせた。生徒全員が退室すると鍵をかけた。
「あーっ、もう、終わり、終わり。早く服を着ましょう」
袋田は吐き捨てるように言い放った。服を着終えた金吾たち二人は、再びソファに坐り、テーブルを隔てて対峙した。
しばらくにらみあいを続けたが、二人同時に吹きだしてしまった。
笑い終えたとき、もとの席に戻っていた町田巡査部長が「先輩、メールの添付、見て下さい。鑑定結果、もう来てますよ」と自分のパソコンの画面に身を屈めながら言った。
「ちぇっ、なれなれしいガキがぁ。今度先輩ってぬかしたら撃つぞ」
袋田は急にしかめっ面をつくると舌打ちをしながらテーブルの上のパソコン画面を見た。そして目をむいた。
「ほっほう、やっぱりねえ。ガッカリはしますが、さらに疑いが深まる気もしますな。血液型の結果がO型RHプラスと出ております。しかもDホモです。
胎児はRHマイナスでした」
「なんだってぇ!」
金吾は両手を握り締めて絶叫した。袋田は大げさに両手で耳をふさいで見せた。顔を益々しかめながら語る。