小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

涼子あるいは……

INDEX|83ページ/217ページ|

次のページ前のページ
 

金吾は、毎週、金曜日から土曜日にかけて実家に帰る。今週は珍しく例外となるだろう。涼子も、金曜と土曜は自分のマンションで過ごしていた。面会日に当てていた。
母親は、金吾の前ではしゃべり通しだ。あんた、肉ばっかし食べてんじゃないの? バカ飲みしないのよ! 大きいシャツ売ってたから。いいの、安かったのよ。汚くなったら捨てなさい。西嶋教授へのお中元はなんにするの? もういいって? どうしてなのよ?  何かあったの? 夜型は直ったの? ……涼子さんって,どんなかたなの?
金吾は憤然と立ち上がった。
「汚い手を使いますな」
金吾と袋田警部は、競争するように服を脱いでソファの端に積んでいった。たちまち二人とも素っ裸になった。
「靴と靴下も脱ぎましょう」
袋田は厳かに言ってから、後ろを振り向いてどなった。
「まず、靴から調べろ。坐ってらしたソファの隙間もな」
立ち上がって金吾に近づいてきた町田巡査部長は顔が真っ赤だった。金吾の坐っていたソファの傍らにしゃがみこむと、まず靴を取り上げた。中に手を入れ、中敷をめくろうとした。かかともねじろうとした。「よそ見をするな!」と袋田の罵声が飛ぶ。町田は首をすくめながら、重ねて置かれた下着や服を丹念に調べ始めた。その間、金吾と袋田は西部劇のガンマン同士のように向かい合ったまま棒立ちを続けていた。
町田が「何もないですね」と言った時、ノックの音がした。間髪をいれず、引き戸が引かれた。
「失礼します!」
貝島姫子の元気のいい声が響いた。金吾は驚いて首をねじった。クラスの子供たちがなだれをうって入ってくるところだった。金吾はあわててソファに坐りこむ。姫子は悲鳴を上げ、手で顔を覆って出て行こうとした。しかし後ろから入ってくる級友達に押されてままならない。
すばやく回れ右をした袋田は,「早く外に出せ!」とどなった。町田は、跳び上がると、ソファにけつまずきながらも、生徒の前に大手をひろげて立ちふさがり「今、身体検査の最中ですからね,みんな、お外で待っててね」などとわめいた。しかしすでに生徒たちは部屋の中に勢ぞろいしていた。太郎は、おぶっていた友彦を床に下ろした。
町田の腕をかいくぐって、上原乙女が一歩前に出た。
「岡田先生は、犯人なんかじゃありません!」
そうだ、そうだ、の合唱が続く。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦