涼子あるいは……
「私はね、先生みたいな超秀才のしでかした悪業がバレるのを、今か今かと、さっきから楽しみにして待っているんですよ」
袋田は右肩を金吾の上腕に、まるで子供が押しくら饅頭をするように、繰り返しぶつけてきた。
「その楽しみを実現するために、御協力願えませんかね」
急に威圧的な口調になったので、金吾は思わず左を見た。袋田のどんぐりまなこが目の前二十センチのところで待ち構えていた。金吾は身震いした。
「被害者の部屋に残された手がかりは一件だけ。
どうも、被害者は、襲われることを予期していたふしがありますな。自殺者が死ぬ前に大掃除をするように、部屋が片づけられ過ぎていましてね。情報も片端から消してありました。
自殺者はそういうことを済ませたあと、何をするかというと、遺言を書くんですよ。彼女も、それに対応するもの、手紙、CD、DVDの類を、親しかったものに託したはずです。ところが、先生の部屋からも、職員室の机からも、それらしきものは見つからなかったんです」
金吾は、CDが無事だったことを確認できてほっとしたが、次の袋田の言葉には仰天した。
「先生、今ここで裸になってください」
金吾は面食らって叫んだ。
「私をどうするつもりですか!」
袋田は落ち着き払って答えた。
「なーに、手荒なことはいたしません。身体検査です。超マイクロのフィルムもありますから隠せるところは人体のいたるところにありますが、まさかそんな手段は使えなかったでしょう」
「拒否しますね。強制執行の許可状を見せてください」
「そんなもの、ありません」
「あなたの名前を挙げてウェブに流しますよ」
「かまわんですよぉ。こっちだってそちらとは相反する内容をそちらの十倍百倍流しますから。都と国の予算でね。でも、まあ、そういきりたたんでください。わかりました。私の個人的なお願いということで、何とかお許し願いたい。私も脱ぎますから」
袋田警部は立ち上がり、テーブルの向こう側に移動して、あっけにとられている金吾の面前で上着を脱ぎ始めた。
「先生、さっさと脱いで! 言うとおりにして頂けたら、御実家の家宅捜索とお母様への尋問はしませんから。お約束します」
金吾は心配顔の母親の顔を思い描く。