涼子あるいは……
「拒否したら、当然さらに不利になりますよ。いかにも犯人っぽくなりますよ。馬鹿げています。私ならそんなことはしませんな」
「別に何も出てこないですよ。ああ、なんでも見てかまわんです。いつやるんですか?」
金吾は、玄関脇の鏡とそこに映っていた植物細胞でできているような自分の顔を思い出した。そして、その顔の額の辺り、鏡の裏に引っかかっているはずのCDを思った。
「ありがとうございました。もう済みました」
袋田はふてぶてしげに声をたてずに笑っていた。
「どういう意味ですか?」
「もう済んでいます。先生が、午前中にここの体育館にいらっしゃった間に済んでいます。そうだったよなぁ」
町田巡査部長は答えない。
袋田はゆっくりと歩いて来ると、金吾の左側に腰を下ろした。金吾の左肩を自分の右肩でそっと押した。金吾は身ぶるいした。CDが心配でならない。
「先生っ、スイカの食べかすは、この暑さだもの、さっさと捨てなきゃ。臭かったですよ。唾液がついてましたよ、二人ぶん。足の爪を切りましたね。どうも、昨日寝る前に切ったようで、スイカの上に降ってましたよ。夜に爪を切ると親の死に目に会えないといいますぜ。
フローリング一平方メートルの足紋をサンプルとして採らせていただきましたが、先生と被害者とのカウントがほぼ同数でした。
箪笥の一番下の引き出しには、彼女のジョギングシューズ、テニスシューズ、ジャージ、スコート、下着、靴下、あれやこれや、生理用品まで詰め込んでありました。実質的には同棲でしたかね?
あと、ティシュについた凝固しかけの血液がありましたが、どうかしましたか? 朝お目にかかったときも具合が悪かったようで。彼女に抵抗されましたかね? 暴行や抵抗の形跡は現場にはないように見えましたが、ひょっとしてぇ。あいや、失礼。
重ねて失礼いたしますが、髪の毛も含めてどれもDNA鑑定と血液鑑定にまわしておきましたよ。今回は是非そうせんといかんのですよ。その理由はもうすぐ申し上げます。他の方々は尋問を始める前に血液鑑定をさせていただきましたが、先生はその必要がありませんでしたな」
袋田は、右肩を金吾の上腕にぶつけてきた。
「へっへっへえー」
袋田は臭い息を金吾の左の頬に吹きかけながらうれしそうに言った。