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涼子あるいは……

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「あなたの言われている幻想と、私の申し上げている幻想とは、やはり随分異なるようですが。というよりまさに正反対のものに同じ名称をつけてしまっているようですね。私は、人間が共有する精神活動の形態全般をさしています。意識的で精緻で明晰判明で矛盾がなくて反論を許さない、万人に共有されているウソモノです。あなたが言ってらっしゃるのは、目も鼻も口もない何の分化もしていない、万人の心の奥に住みついている憑き物、イキモノです。残念ながら、それがホンモノです。あなたの幻想は、さっき話に出たカオスをさしていますね。私の言う幻想は、コスモスのことです。理屈で正当化される一切です」
「ああ、残念ですなぁ。私、先生のおっしゃる二つの対立物の違いがまだよく分かりませんわ。実は大差ないんじゃありませんか? 言い方の違いじゃないでしょうか? どっちによってもわれわれは突き動かされている。少なくとも効果の点では区別できないように思いますよ。覚醒していることと、とり憑かれていることとは違うとおっしゃるのなら、いっそ人類全体が、覚醒にとり憑かれている、としたらよい。どうでしょう? 対立がなくなりかけてきやしませんか? ところで幻想から覚醒することは可能ですか?」
校庭に向かって袋田が呼びかけた。
「そういうご発言からも、私たちの相違がわかりますね。人間は覚醒すればするほど幻想に生きることになるんです」
袋田は横にじりに位置をずらして、校庭と金吾の間に立って、金吾の視線を妨げた。体を前後にゆすりながら十秒ほど沈黙していたが、急にふり向いた。ギョロ目をむいて金吾を突き刺すように指差した。
「幻想は人を殺しますか?」
金吾はびっくりした。身構えた。今、袋田の魂胆がわかった。金吾を罠にはめようとしていたのだった。 
「当然ですよね」と彼は金吾の返答を待たずに自分で答えた。いかにも得意そうだった。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦