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涼子あるいは……

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「恋愛関係は個別にはほとんどが実質的に破綻します。関係した者のほとんどが落胆します。具体的な場面で、幻想の発生に立ち会うからです。恋愛は本来は制度以前の生のままの関係でして、あなたも私も経験したはずです。関係の発生の原理が、なんのことはない、倒錯と錯覚であったことが見えるから、関係者は落胆するのです。個人や共同体の幻想も、もとはといえば、対幻想から生じるものの、生成のからくりは見えない。対幻想の生成する場面でしかそれは見えない。しかし、対幻想の生成過程が見えたとしても、そのことが、幻想そのものを壊すことはできません。幻想は具体的な個人に落胆の責任を転嫁します。幻想の生成にかかわった二者にです。幻想は自分を産んだ両親を殺してしまいます。幻想にとって実は個人は何ほどのものでもない。「私」なぞ必要悪に過ぎません。
相手に幻滅したとしても、次を見つけようとしますよね。性懲りもなく。まさに幻想に駆られて」
金吾はつい興奮してしまった。袋田はその様子を見てはしゃぎださんばかりの喜色満面で応じた。
「ウヒヒッ、次がありそうなら、そっちに向かって一目散、次がなさそうだったら、まだ幻滅していない部分を掘り起こそうと企みますなぁ。そんな部分がなさそうだったら、こっちででっち上げてみたり、さらにそれを針小棒大に膨らませてみたり。性懲りもなく、幻想に駈られて。女を捨てようと、女とくっつこうと、いずれにせよ見果てぬ夢を追います。幻想に生きていますな。
しかしですねぇ。もしかすると、その幻想とは、人間の抱えている、最も醜悪な、下劣で卑劣な、見るにも語るにも耐え得ない、エゴイズムの言い訳でしかない、悪行の張本人、真っ黒い罪の塊ではないでしょうかねぇ? たとえば、今の、女についての話にしても、女はいずれにせよ不幸になりますからねぇ」
袋田は立ち上がって、腰に手を当てて軽く上体をそると、おもむろに後ろ手を組んで、窓の外を見つめた。
相変わらずカーテンが揺らめき、人のいない校庭は白く光り、車の騒音がセミの声に混じってかすかに聞こえてくる。金吾はその背中に向かって話しかけた。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦