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涼子あるいは……

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「倒錯と錯覚が、個々のシーンで、一瞬一瞬幻想を強化しています。これらは、一方向だけに働くポンプのようなもので、生物レベルの現象を幻想へと変換し送り上げています。いったん幻想ができあがると、生物レベルにはもう還元ができません。いくら脳科学が還元を試みても、幻想はいうことを聞かないのです。還元を受け入れると、幻想、すなわちわれわれの本能は死にますからね、幻想は自己保存と自己拡大だけを眼指します」
「ほおう、いや、面白い。観念的とはだんだん思えなくなってきました。自己保存と自己拡大とは、ひらったく言っちまうと眼先の欲を満たそうとするエゴイズムってことにもなりかねんですね。なにせ私、眼先より遠くは見えない人間なんで。私も幻想に突き動かされているに過ぎないとすると、こりゃ、ひとごとではなくなってきたわい。今私は、岡田先生のお話を承りながらその内容を大急ぎで自分の日常に当てはめているところですが、なかなか矛盾は出てきませんな。こういう商売をしてるのも幻想のせいでしたか。
バナナの父親は、そんなことを言ってたんですか。昔読みかけましたが、ちっともわからんかったんですがね。バナナの書いているやつは、娘に借りて読んだところでは、少女のまま発達の止まった女が書いた因縁物語ですなあ」
「それには関心がありません。父親の議論とも、分類を拝借した以外は、ほとんど関係ありません。そのカテゴリーの発生順からして、わたしの場合は、対、共同、自己、ときますから彼とは違います。
ああ、こんなことはどうでもいい。もうムダ話はやめようではないですか」
「今しばらく、ご辛抱ください。ぜひともお聞きしておきたいことが残っておるんですよ。 先生のお話に従えば、男女の間の愛情云々も幻想の仕業であり、この場面でも幻想は強力であることになりますが、どうも実感としては、そうとは限らんように思います。愛の破綻は幻想の破綻のせいでしょうに。 
相手に飽きる、相手を憎む、裏切る、馬鹿にし、軽蔑する、分類しちまって興味がうせる、相手がこっちに飽きる、こっちは馬鹿にされ、軽蔑され、標本のひとつにされ、過去に追いやられる。破綻の事例には事欠きませんよね。ここで、さしもの強力な幻想も、愛がさめるのと相伴ってさめるのではないですか?」
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦