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涼子あるいは……

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あなたのこれまでの研鑽を根本から揺るがしかねない事態に陥りますぞ。あなたの若さゆえのロマンティシズム、英雄主義、反権威主義、韜晦趣味、フ・ナロード。いずれも長くはもちません。
あなたは今特権を捨てることに酔っていらっしゃる。特権を勝ち得た者だけが味わえる隠微な快楽です。しかし、誘惑に負けてはならんのです。そんな貴種流離の感興なんぞすぐ醒めます。やがてせせら笑われ、迷惑がられ、陰口をきかれるようになるのです。私の同期の者でも、バーテンになると言い張って、実際にそうなったのがいます。今はもう生きてはいませんがね。
やがてあなたも五十歳になる。悪いことは言わない、群馬に行ってなさい」
「さっき、お断りしましたよね」
指導教官は、金吾のあくまで反抗的な態度に、もはや不快感を隠さなかった。大きな舌打ちをした。自分の醜悪さの露呈と引き換えの恫喝が無効だったことに自尊心を傷つけられ、猛然と腹をたてた。
彼は他者を放擲する権利をもつ者の優越性に拠りかかって、顔いっぱいに憫笑を浮かべて言ったものだ、
「あーあーあー、しょうがないなあ。あなたは、きっときっと、後悔しますよ」

教授の、歌舞伎じみただみ声を思い出しながら、金吾はもう一度、それは私の勝手です、と心の中でつぶやいた。
袋田の大声が響いた。
「そりゃまあ、そうです。先生の勝手でしたでしょう」
彼は、金吾の、ここ数分間の呆然自失ぶりに、いかにも興味深げだった。
「まあ、ちかごろの官僚はでかいツラができなくなってきましたからね。官僚になってもしんどいだけで、面白くないかもしれませんな。天下り先も極端に減ってしまいましたし。それに、ご両親も学校の先生ですからね。もっともお父様は四十歳で死亡、お母様は現在も八王子市内の小学校で教鞭をとっていらっしゃいますね。御祖父様、叔父様、伯母様、いとこのかたがた、みんな、学校の先生ですねぇ、徹底してますな、これは。血族の伝統ですか。なにやら、先生が一族中の新世代のホープといった感じですな。せいぜいご活躍ください。
文金吾両道に秀でていらっしゃって、剣道四段。高校総体で団体三位、関東学生選手権で個人戦準優勝ですね。
183センチで78キロか。いい体をしてますな。私より一回り大きい。私なんか、形だけは六段ですが、とても太刀打ちできんでしょうな。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦