涼子あるいは……
金吾は、まず涼子の携帯を呼び出した。三回の呼び出し音の後につながった。配電盤のブレーカーが下りたような音がしてから、低音のノイズが続いた。録音されているようだった。 もしもーし、という男の無粋な大声がきこえた。金吾はすぐさま電話を切った。
心臓が滝壷のように打っていた。
メモした番号に、いちいち電話をかけた。再び息ができなくなってきた。話もできにくい。無理やりに話をするから、相手に、何度も聞き返された。
えっ、えっ。もう一度。聞こえないんすがね、おたく、だれ? 岡田? どこの? はあ? なんですかぁ? 意味わかんないなあ。情報提供っていうこと? おたくが提供するの? こっちにしろってえの?
殺気立っている相手は早口で結果を言った。そんなことはない、などと言うとせせら笑われた。テレビ、ネット、見てくださいよ。
警察も報道も例外なく態度は傲慢だった。うるさがられた。金吾は、話をしたがらない相手には、同じ学校の同僚だと言った。たちまち相手の態度が変わって、金吾の携帯の番号を聞きたがった。
彼らは例外なく同じことを金吾に伝えた。
金吾はベッドの上に仰向けになってあえぐ。
ベッドの端に接して机があり、その上に、パソコンと一体型のテレビが置いてある。金吾はベッドを椅子代わりにも使っていた。机に向かって勉強などしていて疲れたらそのまま仰向けに倒れこんで眠る。高校生の頃からの便利でずぼらな習慣だった。
ベッドの端まで這っていってスイッチを入れた。小学校女教諭、殺害される、のタイトルで次のような内容が映し出された。
七日午後十時ごろ、東京都福生市奈賀のマンション管理人から、マンション二階で出火したとの119番通報があり、福生消防署署員が駆けつけたところ、出火原因は、台所のオーブンのぼやであったことが判明したが、居間で福生市立第五小学校養護教諭山岸涼子さん(二十四)が刺殺されているのが発見された。強行侵入や室内が荒らされたあとはなく、着衣の乱れもないことから、福生署は、顔見知りの者による犯行とみて捜査を開始した。
金吾は十時という早い時刻に驚いた。金吾が眠りにつきかけた頃だった。マンションに帰ってきたのが九時半だった。そのわずかあとに火災発生の放送があった。かすかに憶えている。
その段階で、涼子がすでに死んでいたとは……