涼子あるいは……
生徒たちに対する対応策の協議のために、先生方にはこのような時刻ではありますが出校していだだくことになりました。青梅線、八高線の始発でおいでになる先生方が六名、岡田先生以外の残りの方は車です。岡田先生が最も近くにお住まいですので、時間的には最後に連絡いたしました。皆さんがほぼ同時に学校に着けるように按配いたしました。しかしもうほとんどのかたが待機していらっしゃいます」
ここで教頭は息をついだ。声音がくぐもった。涙声の気配さえあった。
「実は、岡田先生への連絡が最後になったことは私の優柔不断の結果でもあります。心情的には、まず第一番にお知らせすべきであったと反省しております。お許しください。
私、先生のご心痛を想像すると、なんと申し上げてよいか言葉がみつからず、受話器をとろうとしても手がすくんで、ついつい後回しになってしまったんです。第三者から連絡をお受けになるだろうし、テレビ等でお知りになるだろうから、と思って、逃げてしまいました。
私のような、愚かな、馬齢を積んだだけの人間が、いかにも陥りがちな愚挙でありました。まことに申し訳ございませんでした」
教頭は弁解しながら自分のひがみ根性に酔いはじめた。金吾はそんな脱線につき合ってはいられなかった。
「死んだ、殺された、という事実を私はどうしたら直接に確認できますか?」
金吾はやっと息をついたが、声の震えを抑えられない。携帯を持つ右手も震えていた。本当に握り潰しそうだった。
「外に出れば駅周辺が騒然としていますのですぐお分かりいただけます。特に山岸先生のマンション近辺では居住者以外は進入禁止になっています。
テレビでは、すべてのチャンネルで、事件の内容が繰り返し放送されています。ウェブ上では、どのプロバイダーのホームページででも、ニュース欄に出ています。報道機関のホームページで載っていないのはありません。
正確なことをお知りになるためには、ただいまから申し上げる電話番号をチェックしてください。よろしいですか?」
いくつかの電話番号を枕もとのノートにメモした。その字もまたのたくり震えた。教頭との電話をいったん切った。