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涼子あるいは……

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愛用のごついトレッキングシューズで、ぎんなんを踏み潰しながら歩く。下から官能的な匂いが立ち昇ってくる。一時的に風が強まると銀杏の葉が同調してどっとざわめき、歓声を上げながら吹き飛ばされてきた。その中に、そり具合のせいなのか、なかなか石畳に達しない葉があった。空中でムーンサルトをすると、見えない糸で吊り下げられた振り子となって、宙を行ったり来たりした。やがて金吾の右足の靴の甲に張り付いた。跳ね上がった葉柄の辺りはまだ青々としていた。扇の骨のような葉脈を辿っていくにつれ、黄が青にとって代わる。コンパスの中心を少しずつずらしながら描いたように、たくさんの円弧が連なって濃い黄色を縁取っている。その縁の右上辺に、漢字の斥の字の上部のような切れ込みがはいっていた。何歩か歩いたあと、さていつまで張り付いていられるのか、と思った瞬間、ふとはがれてどこかへ行ってしまった。
教授は五十代ながらすでに大家だ。蓬髪、無精髯、洋ナシ形の肥満体。工事現場で見られるような作業服をいつも着ている。衒いの無造作、無頓着、プロレタリアート風情。態度にも会話にも遠慮会釈がない。眼はさすがに鋭いが、世間を馬鹿にした表情が定着してしまっているので、会う相手に反感を起こさせる。
金吾は学部の時のゼミの一年を含めてこの三年間我慢をしてきた。不愉快を理由に知識と技術を得るチャンスを放棄するのはばかげていると思ったからだ。いくら相手が、人品卑しい、ガリ勉の成り上がりだろうと、そのことを彼が挙げた学問上の成果を検討する妨げにしてはならない。
「二年ぐらい群馬大に行っててくれませんか。待ちが二十人ぐらいいます。割り込みはさせて差し上げますよ。しかし、それにしても数が多い」
「前から申し上げているように、私は小学校の教員になります」
「何でそんなにひねくれるんですか? というか、かっこつけるんですか? そんなつまらんことをしている段階ではないでしょ? あなたのこれからの生涯が決まってしまって、後戻りはまず不可能になるんですよ?」
教授は、またこの話をしなくてはならないのかという嫌気を、欧米人のように首を大きく左右に振ることで、わざとらしく示した。
「ひねくれてはいませんよ、かっこうはもしかしてつけてるかもしれませんが。子供のころから、小学校の教師になりたかったんです」
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦