小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

涼子あるいは……

INDEX|65ページ/217ページ|

次のページ前のページ
 

「一応事情聴取なので、御自分に不利なことは発言する必要はありません。町田がワープロで打ったものを後ほど読み上げますので、訂正が必要な所は遠慮なく指摘してください。さらに画面を点検していただいて誤字脱字がなければ、プリントアウトした書類に署名をお願いすることになります。つまり一回目は耳で聞いて二回目はご自身で読んでいただきます。ワープロ画面を消去するかどうかはそちらさまの御依存に従います。
今日は、印鑑をお持ちですか? なければないでいいんですが」
袋田は面倒くさそうに尋ねてきた。
「持参しております。指紋も採られるのですか」
「できればお願いします。近頃は拒否される方も多いし、確かに、よい印象は与えないと当方も承知しておりますので、必ずと要求はしない慣例ができつつあります」
「それで済むんですか?」
「済みます。実は調書に触っただけで明瞭な指紋が採れるようになりました。二十五年劣化しないように化学処理した紙です。先生はプリントアウトした調書を読むとき、ページを繰らざるをえない。各ページに先生の指紋が残ります」
「しかし、調書に付随する従来の指紋採取という行為は、相手の同意に意味があるのではないですか? 犯罪現場のそれとは違いますよね」
「そのへんの考え方をわれわれはとっくに変えてしまってるんですよ。調書作成にかかわった証拠になればそれでかまわないのです。犯行現場にいたかもしれないのと同じです。関係者と被疑者の区別は原則としてもういたしません」
「強硬な方向に態度を一元化したということですねえ」
「なんとおっしゃられようと、その態度へ切り替えることによってわれわれは仕事がやりやすくなりましたので、ご勘弁願いたいですな。結局は市民のためです」
袋田は、ニヤニヤ笑っている。ワープロのキーボードの音が聞こえている。聴取はもう始まっているのだ。
袋田は急にしかめっ面をつくって金吾をうかがいながら「ひょっとすると、もうすでに私は先生に嫌われているんですかねぇ。ま、人に嫌われる商売ですからね、性格も言葉づかいも悪くなるわな」とつぶやいた。キーボードの音が止まった。
「全部打て。あくびもゲップも全部打て」と、袋田が首を後ろに捻じ曲げて、今までとはうって変わった、ドスのきいた声で怒鳴った。
「はっ」と相手はうろたえる。
「早く本題に入ってください」
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦