涼子あるいは……
金吾は安食堂に出かける前に、ある人物に電話して今晩の面会の約束をとっておいた。袋田たちが聞き込みに行った相手は、その人物であるかもしれないとふと思った。
「そう言っていただけて気が楽になりました。ま、お坐りください」
言い終えるより早く袋田は自分の席にすとんと坐った。追うようにして金吾が真正面に坐った。
袋田はさすがにバテていた。疲労感が体全体に漂っていた。薄い髪が汗で頭皮に張りつき、開襟シャツも汗まみれだ。靴が土ぼこりで白く汚れている。なにを手始めに問いかけようか迷っているように、目を宙に漂わせていた。さらにまぶたが垂れてきて、物思いに耽り始めたかと思わせた。瞑想か睡眠に陥りかけている。と見る間に首が垂れて、数秒、確かに眠った。巡査部長が咳払いをした。袋田は、体を痙攣させて、薄眼を開け、けどられたかとばかりに金吾の様子をうかがった。金吾は横を向いて知らん振りをした。
突っ立っている巡査部長は、ちょっと困った顔つきで袋田を見下ろしていた。やがて回れ右をして、涼子が使っていた机についた。
保健室は、ちょうど教室一個分の広さで、ドアを背にして左手側に、ベッドが三台並べてある。中央右寄りに木製のテーブルがあり、今、金吾と袋田がそれをはさんで向かい合って坐ったところだ。袋田の背中側に、窓にくっつけて机がおいてあり、それに向かって町田巡査部長が着席している。机には正面の窓をさえぎるように、ガラス張りの引き戸がついた本棚が置いてある。その右側、校舎の北昇降口の裏側にあたる壁には救急医療のための備品を載せた白い棚がある。
閉じた窓の向こうに、真夏の太陽に焼かれて白熱した運動場が見える。
クーラーが廊下側の窓の上に設置されていて、冷風が循環している。金吾は保健室でクーラーが働いているのを初めて体験した。涼子はもういない、とあらためて感じた。窓の左右に引いた白いカーテンが風でかすかに揺れている。ベッドをとり囲むカーテンも揺れていた。
袋田が坐りなおした。