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涼子あるいは……

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太郎は低いうなり声を上げながら机に突っ伏している。両肘が机からはみ出していた。両脚も大きく開いて机をはさんでいた。恵まれた環境のもとでは、都会にあっても、獣はこんなにものびのびと屈託なく成長する。褐色の項から、密生する剛毛を刈り上げた後頭部にかけて、清い匂いが立ち上ってくるかのようだ。両肩にはもう青年の劫さがこもっていた。
右側には貝島姫子が坐っている。
デビュー当時のゴクミの様な美少女だ。母親は元宝塚。今でも時々テレビや映画に出ている。ただし、役どころは、不倫をする人妻役や水商売の女役がほとんどで、何度も殺されている。宝塚に行こうなんて馬鹿な気を起こさせないように、勉強の面でしごいてくださいまし、何をしてもよろしゅうございます、とにこやかに語っていた。姫子の本来の席は前から二列目なのだが、どうしても太郎のそばにいたいと主張して、上原乙女と席を交換した。
姫子も乙女もすでに生理が始まっている。二人を含めてクラスに八人いる。その女の子たちは、涼子と膝つき合わせた女同士の話をしていた。これらの女の子達のませっぷりには、涼子のせいだったのか、もともとそうだったのかわからないが、金吾はひたすらたじろぐばかりだ。十歳あるいは十一歳であるのはわかっているのだが、いかにも年齢不詳の女子軍団だ。
「姫子は、しょっちゅう山岸先生の部屋に遊びに行ってたよな。よくまあそんなに話すことがあるなあとぼくはあきれてたぞ。先生お手製のケーキも、クラスで一番たくさん食べてるだろう。ぼくなんか一度も食べたことがないのに」
最後の一言は余計だったと後悔した。姫子はヒーヒーと泣き続けるばかりだ。金吾は、耳にはいかにも快い泣き声であるのに気づいてはっとする。長い髪が机いっぱいに展開している。
金吾は思い出を語りながら一人一人の生徒と涼子との関係の重さを再認識していた。自分と涼子との関係の重さを涼子と生徒一人一人のそれと比べるために、秤にかけてもみたくなった。全生徒分の合計重量にも負けないつもりではあった。生徒以外の、得体の知れない、その他からかかってくる重量が問題だった。
立花寛治と小沢辰則も隣り合わせに坐っている。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦