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涼子あるいは……

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子供達も親達も世間一般も、皆さんの行動を観察し批判するでしょう。教師生命を賭すべき非常時であります。
生徒達と対面するまでの、あと数時間をくれぐれも無駄にお過ごしにならないように。いかに生徒達と対応するか、熟慮に熟慮を重ねていただきたい」
一瞬、教頭は金吾を睨んだ。
「まもなくおいでになる臨床心理士の方々の意見も聴いて対応策を練ってください。動揺の大きな生徒をカウンセリングする際は心理士と協力していただきます。
しかし、専門家の協力はぜひ必要ではあるものの、彼らに任せようなどとは思わないでいただきたい。そんなこと、失礼ながら、不心得もはなはだしい。
生徒の心を救済できるのは、日ごろ生徒と接している皆さん以外にはいないのです。
なお、報道関係者には、今日だけではなく、教職生活を続けられる限り、ノーコメントを通してください。以上」
教頭は何度目かの涙をぬぐった。
素朴な聖職者の素朴な発言は、教師たちを鼓舞する檄となり、かれらに感銘を与えた。
職員室全体に、今朝初めて、緊張がみなぎった。

八月六日金曜日九時三十分

体育館。
九時から九時五十分までの予定で緊急集会が開かれた。
正面に向かって右側に、奥から、校長、二名のゲスト、一年二年の担任、専科担当の順で折りたたみ式の椅子に坐っている。ゲストとは、福生警察署署長と、療法心理士の代表の女性だ。署長は、まだ三十そこそこの若い男で、開襟シャツに黒のズボンといういでたちだ。心理士は白のスーツに身を固めている。左側に、三年から六年までの担任が並ぶ。
生徒たちも同じ折りたたみ式の椅子に坐っている。年五回のイヴェント集会、すなわち入学式、卒業式、学芸会、音楽会、開校記念祭では、生徒は椅子に坐る。その他の場合は、立ったままか、床に直に坐ることになっている。演台の下に司会役の教頭がマイクを前にして立っている。
九時ちょうどに集会が始まった。
教職員代表の高岡教諭、警察署署長、療法心理士と、いずれも激励調で内容空疎な挨拶を続けた。療法心理士が登壇してすぐに校長が席を立ち、二、三分して戻ってきた。校舎と体育館をつなぐ渡り廊下の途中にあるトイレに行ってきたようだった。
九時半に、校長が登壇した。金吾はほぼ真正面に校長の全身を見ることとなった。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦