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涼子あるいは……

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ホームルームの実施時間は、それぞれの先生の判断でお決めください。しかし、十二時前には生徒を下校させてください。
事情聴取とホームルームを同時進行させることに、皆さんは、ご不審を感じるかもしれません。しかしそれは、捜査活動の円滑化と迅速化を図るためです。どうかご理解願いたいと思います。生徒には、途中退室が聴取のためであることを、くれぐれも悟られないようにお願いします。
お勧めするのは、聴取前にホームルームを切り上げることです。校長と私と事務方四名の聴取が三十分ほどかかると思いますので、ホームルームのための時間は充分とれると思います。
しかし適当にかたづけてくださいなどと申し上げているわけでは毛頭ありません」
じゃ、何て言っとるのよ、というぼやき声が聞こえた。
教頭は答えない。
金吾は配られた刷り物をちらりと見た。事情聴取の順番は、校長が一番目、教頭が二番目、その下に事務員、教諭と続いていた。最後に岡田金吾教諭と書いてあった。
袋田はてぐすねひいて待っているのだ。
「明日は、臨時登校日となります。八時までに登校してください。九時からお別れ会を催します。まもなく校長がお戻りになります。そのときまで、職員会議は中断します。職員室で待機してください。校外には出ないでください」
教頭はそこで言葉を切った。黙って棒立ちでいる。
教員達のざわめきが終息し、全員が、何事かと教頭に注目した。
その雰囲気に応じるように、教頭は、上半身を前のめりに突き出して職員達を睥睨した。たらたらと涙を垂らした。
「皆さん、お聞きください。
心的外傷後ストレス障害、PTSDと言うらしいですが、それを抱えてこれから生きていかざるを得なくなる生徒が、今日、本校で大量に発生しそうな事態にあいなりました。
この事件は、子供達の、まだ走りはじめの人生を、理不尽に狂わせかねません。さらに一生を通じて、ことあるごとに躓きの石となって、心の不幸をもたらしていくかもしれません。
それをくいとめることができるかどうか、私達の教師能力が問われています。皆さんの、生徒の心への肉薄力、生徒の心を癒さんとする熱意が試される時であります。この時にこそ、教師はかくあるべし、との典型をお見せください。教師を志した頃の初心を思い出してください。今の皆さんの到達度をお示しください。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦