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涼子あるいは……

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今、先生がたに、組ごとの対応策を伺っているところです。生徒の動揺をおさめるために、校長先生のお話だけではなく、担任が直に対応すべきだという意見が多数ですので、この際、対応策を出し合って共通のマニュアルを作っておこうということになりました。
岡田先生からの、是非こうしては、といったご提案はございませんでしょうか」
「直に対応すべきだから、共通のマニュアルを作ろうってんですか? 意味がよく分かりませんが」
共通のマニアルなどどうでもよい。自分の受け持つ生徒達への対応の仕方が分からなかった。
涼子は、子供たちにまとわりつかれて暮らしていた。絶大の人気を誇っていた。菩薩のような無私と奉仕の生活を五小では貫いていた。余計なことをしゃべって、天使のイメージから涼子を逸脱させてはならない。子供たちに動揺の種をさらに与えてはならない。涼子の神聖不可侵性を脅かすような個人的関係については一切沈黙すべきだ。しかし、自分との関係なしで涼子を語ることは特に今は難しい。となると一言も言葉が出なくなりそうだ。では、安全弁をあらかじめ作っておけばよい。いくつかの特定の話題については話をしてよしと自分に許可を与えよう。それ以外の話題を禁止する代わりに。さて、あれを言って、これは言わないでおいて…、とみつくろい始めると、そんな区別をこの精神的動揺のなかでできるはずがないことがすぐわかってしまい、出たとこ勝負か、と投げやりになった。そのとたん、これは教頭の問いかけへの最悪の回答だと気づいた。だから、黙っておいた。
「お答えがない。そうですか。しかたないですな」
しかめっ面を作りながらため息まじりに言い放った。やれやれといった表情を隠さないまま正面を向いた。
初めて教頭に馬鹿にされてしまった。反感はなかった。どんどん馬鹿になりつつある自覚があった。
「本日及び明日のスケジュールをただいま配ります。
九時から、全校緊急集会を開きます。その時までの先生方の作業分担も書いてあります。全校集会後に、事情聴取が始まります。
保健室に入室する時刻は、私が一人一人にお伝えしますので、携帯電話をオンにしておいて下さい。
担任の先生が聴取を受けていらっしゃる間は、校長または私が生徒の相手をいたします。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦