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涼子あるいは……

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警部はおおげさに唇をゆがませた。そして内緒話をするような低い声で付け加えた。
「まさにロウテク・ハイスピリットですな」
唇のゆがみは困っているようにも笑っているようにもとれた。
「先生方を、ひとりひとり署にお呼びして延々と尋問するのはご迷惑でしょうし、私どもといたしましても、非能率きわまりありません。したがって、異例ではありますが、全員がお集まりになっている本日中に、皆様の尋問を、この校舎をお借りして、一挙に済ませたい所存です。ご協力をお願いいたします。ではまた」
彼は一礼し、机上のパソコンと携帯無線を引っつかむとさっさと出口に向かった。教頭が立ち上がった。
冷静で、自信たっぷりで、いやらしくて、ふてぶてしい。
尋問のときはこの男と喧嘩になるな、と金吾は覚悟した。最も犯人らしい人物である金吾を、袋田が追い詰めないわけがないからだ。
袋田が後ろ手に戸を閉めると同時に、教頭が言った。
「袋田警部は、いったん特捜本部にお帰りになり、十時に再び本校に戻り聴取をご自身でなさいます。場所は警部のたってのご希望で保健室となりました」
教員室全体がどよめいた。なかなかやまらなかった。

教頭の主導で、今後の対策案が作られていった。
まずは、今日の緊急集会の内容が問題となった。なにを伝えるか、なにを伝えないか、あとで生徒や父兄が事情を知って嘘をついたといわれないようにするにはどうしておいたらよいか、云々。
金吾は、袋田が消えた時に、集中力が尽きてしまった。教頭の声が段々遠のいていく。涼子の記憶の氾濫の中に金吾は溺れていく。このまま眠れたらどんなにいいことか……
「もしもし、岡田先生、もしもし」
教頭の声で、金吾は我に返った。教師らが、またもや一斉に金吾を見ている。教頭は、申し訳なさそうに、しかし、何かの兆候を探るように、金吾をうかがっている。金吾は見かえす。袋田の強引さと生徒のケアの必要性との間で、右往左往し、当惑しているのが明かだった。
「当方も、ご心痛のあまりの忘我状態と察してはおりまして、まことにご迷惑とは承知しておりますが、無粋な現実問題も申し上げねばなりません、お聞きください。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦