涼子あるいは……
「えっ、そうなんですか?」
「今まで何聞いてたの。言われたとおりに裸になってケツの穴まで検査させろ、ですよ?」
「まっさか。そんなことしないでしょ」
二三人からくすくす笑いが漏れた。
「比喩だよ」
「でしょうね。けど、いざとなったら、それならそれでかまわないんじゃないですか?」
「うーん、ちょっと、話にならんな」
「どこが変ですか? より早く問題が解決すれば、けっこうじゃないですか」
賛成、と若い男の声。富沢教諭だ。
「立花先生は、この事態を、さっさとけりをつけてもらいたい迷惑ごととでも思っておいでですな」
「そうかもしれません。けど、なんか、文句ありますか? 皆さん、本音、言って下さいよ。そして、浪岡先生にはすまないと思いますけど、袋田警部さんの話、もっとちゃんと聞きましょうよ」
お前に言われたくないよ、の声。
「ああ、ああ、わかったよ。じゃ、みんな、もうしばらく我慢しようや」
今度は野次が飛ばない。
山崎教諭は、腕組みをしながら背を伸ばして、じんわりと語り、立花教諭と富沢教諭にウインクした。ウインクは彼のくせだ。後で二人をどうするつもりなのか。
帰れ、の合唱が止んだ。全員が袋田の話に耳を傾ける姿勢をとった。
こういう時にはたいした貫禄の山崎だった。体つきが高岡よりもさらに蝦蟇に似ている。なにかにつけて親分風を吹かせる。金吾は彼を大いに嫌っている。本物の蝦蟇はむしろ愛らしい。子供のころに飼っていた。しかし、ここ数ヶ月、金吾の見てきたところ、こっちの蝦蟇は醜悪極まりない男だった。執念深い策略家だった。
その蝦蟇は腕を組んで黙ったままだ。袋田だけがしゃべる。
「お言葉、ありがとうございます。
状況を詳しく申し上げましたのは、このようないわば古典的な殺害方法のうちに、犯人の個性、人格傾向、社会的身分、年齢、体格、男女別、教養、ま、教養といったら変ですが、そういう手がかりが見え隠れしているように思えてなりませんので、皆さんの印象を前もって喚起しておきたく思ったからです。後に個別の尋問がございますので、この点についてご意見を頂戴できれば幸いです。
犯人は、いとも簡単な道具を用いて、一般市民の想像を絶するような感情あるいは観念に駆られ、このような残虐な犯行に及びました」