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涼子あるいは……

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「異例な点の第二は、今の方の御指摘どおり、われわれの捜査の現段階での不完全さを白状するようなものですが、被害者には殺される理由が見当たらないことです。
短時間にわかった限りでですが、被害者の言動、人格には非の打ちどころがありません。聴き取りをさせていただいた、被害者を知る方々はどなたも彼女を褒め称えています。捜査を進めていくうちに、関係者たちからは、若干の問題点が出てきましたが、被害者自身からは何も出てきませんでした」
どういう意味だっ、と怒鳴り声が響く。いくつかのため息が続いた。袋田は声のほうをにらんだ。
「金銭関係、人間関係で記録に残るトラブルを起こしたことは一度もありません。決して幸福な生い立ちではありませんでしたが、周囲の者を幸福にする天与の資質があったようですな。通常の意味での憎悪や怨恨が生じる余地はありません。ちと、出来過ぎのようないいひとです。
犯人の抱いていた殺意は、第三者などが窺うべくもない、深く隠れた、想像を絶する、特異で激烈な何か、だったのでしょう。
ああっ、心中の可能性は全くありません。もうすぐ説明いたします。
第三点は、犯人の遺留品がなく、現場に犯罪行為の痕跡が残っていないことです。
物取り強盗の形跡がなく、変質者の通り魔的な犯行でもないことが証明されております。犯人が現場にいたという痕跡すらないのです。自殺に限りなく近い他殺です。犯行は、諸々の報道の示すとおり、面識のある者、それも極めて親しい者による殺害行為であったと推察されます。
犯人は被害者にとっても、皆様、さらには町の人々にとってもごく身近な人物であるようです。
祭りの雑踏の中を逃げ切っていますね。紛れ込んでしまえば逃げやすいとお思いでしょうが、大間違いです。日常親しくしている者が、町中の人が繰り出す祭りの雑踏の中を、逃げおおすことは出来ません。知り合いに見つけられる機会はふだんより遥かに多い。遠くから見つけられると、落ち着きなさを不信がられる。近くで見つけられると、挨拶をしたり、ちょっと付き合ったりせざるを得ない。そんなことしちゃったら、ボロはいくらでも出てしまいます。
犯人は、その姿を見られても、いちいち意識されないぐらいポピュラーな、公の、安心な、例えば、小学校の先生のようなキャラクターだったのかもしれませんな」
ふざけるなーっ、の声。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦