涼子あるいは……
事件発生直後に西多摩四市に非常警戒態勢を敷きました。現在も解いておりません。市民の方々へのご迷惑は重々承知の上ながら、昨晩十一時より現場近隣に限り聞き込みを始めました。。十二時半にいったん終了。近親者への電話による聴取は現在も続行中です。今朝は、六時より、事件現場を中心として半径一キロメートルの地域に対して、地割り聞き込み捜査を開始する予定です。
被害者自身と、昨日までに判明した近親者関係者参考人計四十五名の、電子化済みのデータの一部、すなわち警察公安関係資料、各種登録、学歴職歴関係、税金年金保険金関係、戸籍住民票、固定電話携帯電話送着信歴は、現時点で検索採集を終えております」
座がどよめいた。教職員全員が、自分たちは見物人ではないことを思い知らされた。急に危機意識に眼覚めた。不安が広がった。
「個人情報漏洩!」と怒鳴り声。
袋田は、発言した山崎教諭を一瞥してから話を続けた。表情がまったく変わらない。
「そのような法的問題がないからこそ皆様にお伝えできるのですよ。後ほどの聴取の際の無駄を省くために前もって申し上げました。因みに、ここにいらっしゃる方全員が、この四十五名のなかに含まれております」
さらに大きなどよめきが起きた。教師たちは不快と不審の感を露わにし、顔を見合わせる。なにそれ、じょーだんじゃねえや、などと抑制の効いていない囁きが飛び交う。
袋田は教師たちの反応を退屈そうに眺めやりながら続けた。
「今回の事件で、異例な点は多々あります。経った半日の捜査では、何の断定もできません。しかし印象は鮮烈であります」
室内がどよめいた。
「その第一は、被害者の行動範囲が極めて限られていて、知人や関係者の数が極めて少ないことです。
敷鑑捜査、被害者の身辺捜査のことですが、それはあっけなく済んでしまいました。長野県のご親戚と古くからの友人知人以外に、被害者が接触してきたのは、五小の教職員である皆様に限られます。被害者の、五小での勤務歴が一年数か月に過ぎないことを考慮すると、やや異様ですらあります」
あんたらの捜査がいい加減だからじゃないのか、との野次が飛ぶ。何人かがいっせいにシーッと言った。袋田は無視した。