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涼子あるいは……

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金吾がマンションから出て歩き出すと、パトカーはUターンして金吾の歩調にあわせてついてきたのではないか? PTAも駅前広場にいた警官達も金吾の背後にパトカーがのろのろついて来るのを見ていたのではないか? 
金吾は自制心を奮い立たせ、憶測を打ち切って、袋田という警部を観察し始めた。
当人が応じるようにすっくと立ち上がった。
「改めて自己紹介いたします。本庁捜査一課の袋田と申します」
バリトンの、なかなかいい声だ。下げた頭頂が薄くなっている。中背だが肩幅がやたらと広い精悍な五十男だ。開襟シャツの下には鍛えた筋肉の存在が明らかだ。柔道か剣道を相当やってきたらしい。日に焼けた細面の真ん中に小さくて硬そうな鼻が突き出ている。その鼻の頭と頬骨のあたりは陽に焼け過ぎて赤く腫れている。突き出た額の下の眼が一瞬金吾をとらえて睨んだ。やっと来たね、待ってたよ、とでも言っているように思えて、金吾は思わずすくむ。他人を一切信用していない傲慢で絶望的な眼だった。その眼はすぐ金吾から外れて、他の教師の様子をひたひたとうかがう。落ち着いている。精神の揺らぎが微塵も見えない。この場の自分以外の人間を呑んでかかっている。金吾は、どこかで見たような男だと思った。ロシア大統領プーチンの顔が浮かんだ。ほほえましいほどよく似ていた。
「昨晩十時三十分に第一報を受け、すぐに福生署に出向し、捜査を開始いたしました。
なにぶんにも、現在福生市は七夕祭りを開催中で、署員は多忙を極めておりますので、所轄だけではとても人手が足りず、立川署、青梅署の協力を仰ぎました。その結果われわれ本庁の出向組十名と合わせて五十名を越える捜査員を動員でき、福生署内に捜査本部を設けることができました。
市立五小養護教諭殺人事件特捜本部であります。
本部長には、福生署の署長である福本博信警視があたり、既に陣頭指揮をとっております。
特捜本部を立ち上げるのは、クリントン大統領訪日の際の、横田基地ロケット弾砲撃事件以来であります。そのときも含めまして本官の福生署への出向は十数回におよび、この地は、最も本官に縁の深いところであります。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦