涼子あるいは……
教頭は、代金を払ってから、新聞を教諭達に配った。皆、身を寄せ合うようにして読む。
金吾も読んだ。印刷インクの匂いが鼻血の臭いに混じった。
朝刊の十三版に、ぎりぎり間に合ったらしく、組み方が上手くいっていない。紙面の左辺から始まった記事が、途中で大きく右にずれて下段へと移っている。
記事の内容は、テレビと同じだった。涼子の写真は載っていなかった。
テレビ欄を見た。午前中の報道番組、ワイドショウに、全局がこの事件を取り上げることになっていた。急遽差し替えられたとおぼしいタイトルは、美人女教師殺害事件、人気教師に突然の死が、何が起きたか猟奇殺人、養護教師謎の死、等々。
教頭が咳をした。全員が新聞から目を移す。教頭は直立不動で立っている。リモコンを右手に握ったままなのが滑稽だった。
「詳しい状況については、ただいまから警視庁の袋田警部より説明があります。お忙しいにもかかわらず、わざわざ本校に来ていただきました。その理由は、袋田警部自身が皆さんに説明なされると思います。
警部がこれから皆さんにお伝えすることは、まことに耳をふさぎたくなるような内容でございます。このような具体的なことをあえてお聞かせするのは、皆さんの協力がより得やすいようにという警察の強い要望からです。なお、お聴きになったことについては他言なきようにお願いします」
警視庁云々と聞いてざわめいていた教員達も、教頭が涙を拭きながら席に着いたのを見てしんとなった。冷房装置の音が急に耳障りになる。
金吾は、鼻の穴に詰めていたティッシュを机の下の塵かごに捨て、机の引き出しからタオルを取り出して鼻を拭った。汗とカビのにおいが不快だった。右手の肘を机について顔半分をタオルで覆ったままの姿勢で考えた。
なぜ警視庁の警部が今ここにいるのか。当人が説明すると教頭は言った。それを聞けば一応はわかるだろうが、金吾個人に起因する事情もありそうに思った。金吾が来るのを待っていたのは教員や教頭以上にこの男だったのかもしれない。金吾を追って、というより先回りして、ここで待っていたのか? パトカーに乗っていた刑事の後頭部を思い浮かべ、この男がふり向いたときの後頭部とを比べてみた。……似ている。