涼子あるいは……
彼らが待機中に金吾のことを話題にしていたのは明らかだ。涼子と付き合っていたことはだれもが知っていた。彼らの知りたいことは、昨日の事件に金吾が関係あるのかどうかではなく、どこまで関与していたか、だろう。
金吾はうんざりだった。彼らと関わりたくなかった。敬意を表し、仲良く付き合ってきた先輩たちではあるからこそ、その下品な詮索根性を見たくなかった。そもそも彼らの追求に対処するだけの精神の余力があるかどうか、はなはだ疑問だった
机の上板の中央に視点をあわせたまま席についた。アホ面を装う。呆然自失を通そうと決めた。
「岡田先生、ご苦労様です」
教頭が立ち上がって頭を下げた。金吾はきょう二度目のご苦労様を聞いた。彼が全員に金吾を待つのを強いた理由が、よくわからなかった。金吾がいなくては始まらないこととはなにか?
職員室は、ちょうど教室二つ分の広さがある。片側に、大型白板を背にしてデスクが三つ並んでいる。中央は校長の坐る席だ。その左側の席に教頭、右側のゲスト席に、見知らぬ男が坐っている。うつむいて机上のノートパソコンを操作している。頻繁に携帯がかかってくるので、そのたびに回転椅子を回して後ろ向きになり、小声で話をしている。その男が発する何やら動物的な雰囲気を金吾は強く意識する。
教諭の席は、それら三つの席とは直角に、顔を合わせるようにして二列ずつ、計四列並んでいる。それぞれの机の上にはパソコンが置いてあり、画面すべてに、今回の事件の報道番組が映し出されている。教頭の席の斜め背後の壁には、大型の壁掛けテレビがしつらえてあり、キャスターの解説と、現場の風景が交互に映し出されていた。ちょうど、あのパジャマ姿のおばさんが得意そうにしゃべっているところだった。音声は絞ってあるので内容は汲み取れない。彼女のお目当てはこれだったのだな、と金吾は苦笑した。教頭はリモコンを握ったまま頻繁に振り返って画面を見る。
突然、職員室の引き戸が開いた。
「あのぅ、朝日新聞ですが、電話でお受けしました朝刊十部、お届けにあがりました」
若い小太りの新聞配達員が、職員室にみなぎる緊張感に気圧されながら、背中を丸めて入ってきた。同伴の制服警官が入り口に待機している。配達員はA2型のビニール製のバッグに入った新聞を教頭の前においた。額に汗が光っている。