涼子あるいは……
金吾の左右には三基のサーチライトが設置してあった。そのうちのひとつがちょうど点灯して、マンションの二階通路から階段を経て玄関までをゆっくりと掃いていった。もはやライトは必要と思われないほどに明るくなってはいたが、光の環が切り取る光景を金吾は発掘された貴重な映像を見るように凝視した。
四階建てのマンションのすべての廊下は、外から見えないように、青いビニールシートで覆われていた。その内側はすでに熱気がこもっていそうだった。
涼子の部屋は201号室だ。二階の最も手前側にある。部屋のすぐ横に階段があり、くの字に折れて玄関に達している。金吾の正面でその玄関が暗い口を開けていた。奥の床も階段も手摺りもシートで覆われていた。シートは玄関口の両脇にも垂れ下がり、庇にも巻き上げられてガムテープで留めてある。遺体搬出の際に、救急車の後部ドアと玄関とを結ぶトンネルとして使ったようだった。
ライトがとっくに消されても、金吾の視線は、ビニールシートをなぞりながら201号室の前と玄関とを何度も往復した。ビニールシートの向こうの階段や廊下を、一人で、あるいは涼子と二人で通っていく自分の姿を想像した。
嬉々として大股で歩いていく自分の姿。金吾の腕にすがって笑いかける涼子。上半身を横倒しにして一階の郵便箱をのぞく涼子。涼子はいつも階段を駆け上がった。ドアの鍵を開けるためにややかがんだ涼子の両膝の裏と尻……
金吾は、ふとあることを思い出して、振り返った。駐車場の後列の左から二番目の区画に涼子の車が置いてあるはずだった。松本から転がしてきたおんぼろのクーペで、涼子はほとんど使わなかった。近寄ると、車はなかった。レッカー車で運ばれてしまったのだろう。
その駐車場を出ると、一方通行路と青梅線の間にある西友の駐車場から、テレビの中継車が出てくるところだった。ふつうこの駐車場は夜間には使われていない。しかし今は、遮断機が上がりっぱなしになっており、中継車がまだ三台駐車していた。社旗を垂らした新聞社の車も数台とまっている。
駐車場を出ようとする日本テレビの中継車を、野次馬が道を空けて通してやった。