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涼子あるいは……

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カンカン照りの陽の下で、地面はオーブンの中のナンのように焼かれている。ぎらぎらの太陽の光を浴びながら、子供たちがドッヂボールに興じている。サークルの内側はもう残り少なく、姫子とあと男子三人になっている。姫ちゃんに集中ね、と外側の子供たちが叫ぶ。大げさな身振りでいかにも余裕ありげに、姫子がボールを避ける。泳ぐように空中をよぎる。
姫子のその美しい不安定さが、想像の中の平井川が、独り言でのそれの連発が、きっかけになってしまった。金吾は、つい今しがたの悟ったような心持から、徐々に逸脱しはじめた。不安に駈られはじめた。
まだ何か残りがあるのだろうか。いけない状態になりそうだ。
やっぱり。
後遺症が出てきた。友彦を思い出しそうになってきた。というより、思い出さざるを得ないような状況にまたも落としこめられた。何かが、誰かが、思い出せと命令する。この発作は、あの時以来、特に友彦の死以来、金吾の平静を突き崩す恐ろしい習慣になっていた。
強迫神経症だ。踊る友彦があれから何度も金吾の頭の中を訪れた。
なにか言い忘れたことがあって、それを言い残すために、ひき返して来た、とでも言うように。そう簡単には教えてやらない、自分で悟れ、悟るまで何度も引き返してくるぞ、とでも言うように。金吾の悟りの鈍さを馬鹿にするため、とでも言うように。
性懲りもなくよみがえる怪物…… 涼子の夢はほぼ毎日見るが、友彦も、時に金吾の安眠を蹂躙し,時に白昼堂々と現れる。
今またあの場面がよみがえる。友彦は踊っている。振り払うのが難しい。
あの時の真っ暗闇と、この真昼の、影が許されない光の横溢とは大違いだろう?
それとも、この白熱はあの稲妻の比喩なのか?
金吾はまばゆい地面を凝視した。眼が痛くなった。
両耳の内側で涼子が大声で叫んでいた。涼子は金吾の中で生きているのだ。叫んでいるのは涼子だと金吾が思っているだけで、実際に叫んでいるのは金吾なのだろうが、金吾が叫んでいるとは思えないほどの涼子らしさだった。
金吾は自分がどうなっていくのか分からなくなった。

やっぱりあなたはそれを見てしまうのね。
こうとなってはしかたがない。
眼を大きく見開いて見なさい。
それが、あなたという謎を解くのよ。
私がそもそもあなたに惚れてしまった理由があなたにはまだわかってないでしょ?
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦