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涼子あるいは……

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「だれそれ?」
だれそれ! 
涼子を刺し、金吾を危うく刺すところだった畳針は、この子が、畳職人である祖父の仕事部屋から盗んできたものだったはずだ。凶器の提供者だ。その子が、だれそれ、と答える。冗談にもほどがあるが、他の生徒たちは平然とそれを聞きながした。きっと一人残らず同じように答えるにちがいない。だれそれ……
呆然と立ちすくむ金吾に飽きて、生徒たちは、がやがやとおしゃべりを始めた。
以後、友彦と太郎のこと、涼子のこと、あのことには、だれも一言も触れない。かかっていた魔法が解けて眠りからさめたのか。本当に忘れてしまったのか。新たな魔法を自分たちで自分たちにかけたのか。強固な結束力を維持して一生とぼけ続けるつもりらしい。このクラスは秘密結社だったのか? 堂々としらばっくれ続ける、あっけらかんとした、ふてぶてしい、人をぞっとさせる子供たち。
金吾はまだまだとてもこの状況に慣れることはできない。教室中に響く泣き声が耳の奥によみがえり、群がる傘が眼の奥によみがえる。日に何度もよみがえる。みんなが嘘をついていて、それが当たり前だ、現実だ、という状況。実と虚がでんぐりかえっているこの感じをなんと表現したらよかろうか。現実こそが悪夢だった。今遅ればせながら気がついた。この悪夢から覚める手段があるのだろうか。子供たちの躍動する身体の中に、愛嬌いっぱいの上眼づかいの中に、金吾は魔物の跳梁を見てしまう。繰り返し、繰り返し、死ぬまで、この魔物を見続けることになりそうだ。子供にも大人にも誰にでも潜んでいるそれだ。人間はこんなふうにまでなってしまう……
それを見ざるをえず、見るたびごとに、見れば見るほど、自分がとめどもなく解体していきそうだっだ。蔓延してしまったそれから逃れることはもうできそうにない。この事態とともに生きていくしかない。解体は致し方ない、とめどもないが、せめて緩やかに。そのための工夫がこれからの生き方を決定するだろう。たとえば、自然との交歓……
いま、昼休み、金吾は二階の教室の窓から運動場を見下ろしている。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦