涼子あるいは……
袋田は、初めて金吾の顔を、盗み見た。
「第一指、足の親指ですね、それと第二指、足の人差し指ですね、その二本がほぼ直角をなしていました。まるで猿の足のようでした。骨の畸形が明らかです」
金吾は天を仰いで、ああっ、とため息をついた。履く靴下もない、巨大な靴しか履けない、いびつな足の持ち主は友彦しかいない。
袋田は、りそな銀行がある交差点で、パトカーを追い払おうと、手を振った。運転している町田巡査部長は、赤信号なのにあわててアクセルを踏んでしまった。信号を見ずに金吾の顔を見たままで手を振った袋田が悪い。
「私は、先生を尋問中に生徒が乱入してきたとき、変な感じがしましてねぇ。あそこに立っている障害児の目の高さが、被害者が坐っているときの耳の高さと同じになるな、と思ったんですよ。先生も授業をしていて白板に字を書くとき、一番楽なのは目の高さに書く場合でしょう。ましてや失敗が許されない、一回限りの行為をする場合、人は最も有利な態勢をとったうえで決行するもんです。ま、しかし、あの時は、チラッとそんなことが頭を掠めただけでしてね。根拠も何もないことですから」
「で、どうするおつもりですか?」
「それを伺うためにお呼びしたんですよ。先生こそどうするおつもりですか? 私のほうは簡単です。畳表はさっき燃えるゴミ用のビニール袋に入れてゴミ捨て場に出しておきました。あの子はもう死んでいます。捜査はできません。相手がいないんだから」
金吾はまだ安心できなかった。
「あなたのキャリアにとって、大きなマイナスになるのを承知の上で、一生口にしないと誓えるんですか?」
「あなたがそうするのなら私もそうする。武士に二言はない」
二人は立ち止まった。どちらからともなく手を差し出した。
「もう会うことはないでしょうね」と金吾。
「そんなことがないようにお気をつけて」と袋田。
握った手を一振りして金吾と袋田は別れた。



