涼子あるいは……
すると建物の影から二つ、三つと傘が出てきた。それらはねぎらうように友彦の背を覆った。ブルドーザーの後ろからも、朽ちた内装材の向こう側からも、傘があらわれた。それらは太郎と友彦に向かって寄ってくる。いずれも見覚えのある小さな傘だ。門から傘の集団が一斉に敷地内に入ってきた。傘の模様で持ち主が誰だかがわかった。五十音順に拾いだせる。秋月久雄がいる。井上翔太がいる。井原めぐみがいる。上原乙女がいる。小沢辰則がいる。尾上絵里がいる。貝島姫子がいる。小島昭子がいる……三十の傘がそろった。闇の中で揺れ動く花の群落を見るようだった。
金吾は午前中の教室でのやり取りを思い出した。この子達は、個人としてのBを、山崎ではなく友彦あるいは太郎と思い、集団としてのBをアジールではなく自分たち五年三組のことだと解釈したのだ。金吾が自分たちの実態を把握しかけていると思い、先制攻撃を仕掛けてきたのだった。
クラス全員が友彦と太郎を取り囲むようにして駅のほうへ歩み去った。
雨は小降りになり、雷はやんだ。
遠くの拡声器から、祭りの音頭の歌声が、再び聴こえてきた。まず都はるみ。
エピローグ
二学期が始まった。
金吾は、二十五歳で、思い出に生き始めた。
この二学期が、日常生活は単調で退屈な、頭は追想で充満する、夏の名残りとなるのがわかっていた。さらに二学期だけでなく、三学期も、来年も、十年後も、老人になっても、死の一瞬に至るまでも、この夏の名残りを生きていかねばならないだろう。
校長が殺された。涼子の葬儀の日から二日目のことだった。まだ入院中だった校長は、金吾と同じ方法で侵入した数人の暴漢に鉄パイプで殴打されて即死した。八月に二回の学校葬がとりおこなわれた。



