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涼子あるいは……

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振り返ると、ゴム手袋をはめ、右手に木槌、左手に畳針を持ち、口を半開きにして、顔面汗まみれの太郎が、呆然と立ちすくんでいた。
ため息がもれた。もちろん金吾からももれた。しかし、友彦からも太郎からももれた。だがさらに、テーブルの下からももれた。部屋の隅、ぼんやりと闇に浮かぶスチール製のデスクの下あたりからももれ出てきた。金吾は驚くべき状況を理解し始めた。
「帰ろう」
友彦が誰に言うでもなく告げた。闇全体に呼びかけたかのようだった。
友彦の演説が始まった。
「君がどのような方法で血液型のことを感づいたかわからない。保健記録ファイルが紛失しているのに気がついて推量したのだろう。警察は、涼子の自室の捜索は丹念にやるだろうが、保健室はそれほどでもないだろうとわれわれはたかをくくっていた。実際、そうであったようだ。しかし、警察ではなく君に気づかれてしまった。    
われわれは考えた。血液型を隠す必要のある生徒はだれか、君は調べるだろう。太郎に行きつくだろう。一方、CDのガードもやがては破られるだろう。狂気の生活が明らかになるだろう。時間の問題になってきた。君はわれわれの生涯の秘密をこんなに早い段階で掌握してしまう。
脅そうが、おだてようが、好奇心を刺激しようが、手段は選ばずに君をここにおびき寄せて、CDをとりあげたうえで抹殺したかった。個人的に恨みはないが、君には死んでもらうしかなかった。仲間に入るとひとこと言えば取り止めにするつもりだったがね。
抹殺には失敗した。二度目はない。金吾器を持って抵抗する大男には、たとえ何人がかりだろうと歯が立つまい。私は考えを変えた。ただでさえ少ない同部族民を殺さないようにしようと思う。君を油断させる方便として、私はメールに、君は他人にばらさない、と書いた。だが、なんだか本当に君が一生沈黙を守るように思えてきたよ。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦