涼子あるいは……
「君はいやに静かだね。無表情だね。君が、体裁を繕おう、理性的であろう、と無理をしているのなら、ばかげたことだと思う。現時点で、体裁も理性も無効だ。そんな状態であるくせに、体裁や理性が寄り付いてくると思うかね。それとも、死んだふりをしているのかな。判断停止に溺れているのかい? そんなことで状況は変わらないぞ。最もありきたりの行動をとったらどうだい。感情をぶちまけたらどうだ? 泣いて叫んで怒ってあばれろ。人間的に反応してみろ。もっと怒っていいんだぞ。私を殺さんばかりにたけり狂ってもいいのに。ためしに殺してみるか? ちゃんと反応しろよ!
反応しないんならこちらからさらに突っつくぞ。提案がある。イエスかノウか、すぐに答えてほしい。こっちも忙しいんでね。
どうだい? われわれの仲間にならないかい? 私がなぜ手の内を君に全面的にバラしたか。実態をさらけ出したか。なぜ自白したのか。君にとことん知ってもらいたくなったからさ。君は実は子供になりたいんだろう? 少年の日に戻りたくて小学校教師になったんだろう? われわれのように生きたかったんだろう? 君は地獄をのぞいているみたいに顔をしかめて私の報告を聴いていた。だが君のなかにはわれわれと同じ資質がある。私の話を聞いている君の表情からもそれがわかった。君の好奇心の高揚と隠微な興奮が、こちらには手にとるようにわかった。同じ部族の印が君の額にもついている。大人の見掛けはしていても君は子供さ。われわれのスポークスマンになりたまえ。ほら、君のユニークな未来が見えてくるじゃないか! イエスかノウか!」
金吾は反射的に答えた。自分に時間を与えて考えさせると、何が出てくるかわかったものではなかったからだ。
「ノウだ。断じてノウだ。ふざけるな」
「素直じゃないね。後悔するぞ。いや、後悔するひまもないか」
「黙れ、黙っていろ。私の流儀で涼子を弔わせろ。君には関係ない」
そう言いながらも金吾は友彦の次に言うことに耳を傾けてしまう。友彦は得意気に言った。
「馬鹿な。何をトンチンカンなことを吐いているのだ。私こそが第一の関係者だ。涼子の殺害者だぞ。君と涼子だけの世界なぞちっぽけな幻想だったのがまだわからないのか。のぼせあがるな! それに、太郎がいる。ふふ、君とより太郎との関係のほうが深かったんだぞ。君なぞ脇役だった」



