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涼子あるいは……

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だが、それは、してはいけないことでした。あなたの知らない私の悪行にブレーキはきかなかった。ごめんなさい。本当にごめんなさい。だめだった。どうしてもだめだったのよ。私は正真正銘の悪なんです。あんなに大切な時期だったのに、お城をこっそり忍び出て、週に二日は大人とも子供ともつきあっていたの。王子様の眼を盗んで、たらしこんだ少年の子を孕んだの。あなたが私にできない唯一のことに私は眼がくらんだ。産みたいって少年にせっついたの。
かわいそうなあなた。なんてかわいそうなあなたでしょう。なんて私はひどい女なの。
私があなたを毒するのは当然ですから、あなたとの交渉の全場面で躊躇しはじめました。あなただけはそのままにしておきたいと思うあまりに、あなたとの関係をさらに深化させることに躊躇しました。あなたが私の猫かぶりに気がつかないのでむしろいらいらしました。あなたのような、こんないい子をだまして、まったく悪い女だな、と思っていました。このまま引き伸ばすと発覚の際のあなたのダメジはずっと大きくなり、結局は、あなたは呆れ果て、疲れ果て、傷つき、人間への不信感を決定的にしかねなくなるでしょう。私は、あなたから遠ざかり始めました。
あなたの中に、私との同族性を時々見つけることがあって怖くなってきたこともその原因のひとつです。友彦君たちに私が惹かれるのと根拠が重なりそうな点が問題でした。そこを解明するのは、私はそれこそ躊躇するので、あなた、自分で考えてね。
あなたの本質を表し示す一点が、だんだん広がってきて、その内実が見えてきそうになってきて、その内実はもう知っていることであるようで、怖くてなりません。繰り返し同じ場面に遭遇することになるのかと思うと、ああ、逃げ場はこの世にはないのだな、となんどもついたため息をまたつきます。二度も三度も捕まってしまう野犬たちがいます。どうしても同じ悲しい場面に戻ってきてしまう犬たちがいます。あなたは何のことかわからないでしょうね。
作品名:涼子あるいは…… 作家名:安西光彦